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「レイチェル、君の数々の所業分かっているんだぞ」
私の婚約者であるアレク様の声が、学園内のホールに響き渡った。
もうこれは何回目の断罪シーンだろう。
いつの頃からか、私はカウントをするのを辞めてしまった。
「アレク様……私は……」
「君の言い訳など聞きたくもない」
アレクはそう言いながら、隣にいたレイラ嬢の肩を引き寄せる。
私とアレクは親たちが決めた婚約者同士だった。
それでも、少なくとも私は彼を愛していた。
「どうしてなのです? 私はただ……アレク様のことを愛してきただけなのに」
「愛してきただけだと? ふざけるな。皆、知っているんだぞ! 君がレイラに嫉妬をし、今までしてきた数々の嫌がらせ。今までは目をつむってきたが、今回はもう見逃すことは出来ない」
そう。今回も同じなのね。
言い訳をしたとしても、事実を変えたとしても結果ココに結び付く。
そうここは無限ループの檻の中。
何度繰り返しても私は悪役令嬢で、愛する人をヒロインに盗られ、そして愛する人の手で断罪される。
「私は何もしておりません。何かの間違いです」
「間違いだと!? ふざけるな。君が差し出したモノを食べたせいで、レイラは死にかけたのだぞ」
「アレク……様」
大きな翠の瞳に涙をいっぱい貯め、レイラがアレクにしなだれかかる。
レイラに毒が盛られたのは確かだった。
でも私は何もしていない。
初めこそ嫌がらせをしていたが、この無限ループに気づいてからは一度だってしていないのに。
それでも変わらない未来。
私が何をしたというのだろう。
むしろ、被害者は私なのに……。
「君は僕とレイラとの恋仲に嫉妬し、彼女を殺そうとした。貴族への殺人は未遂とはいえ死罪に当たる。牢獄の奥で震えながら、最後の時を待つがいい」
元とはいえ、十年近く共に過ごした婚約者への言葉。
そこには一切の情すら、私には感じられない。
「私の言葉を、信じては下さらないのですね……」
彼には、私に対する愛情は1ミリもなかったのだろうか。
いじめてもいじめなくても、無関心でも、仲良くしていても……。
決して変えることのできなかった未来。
もう疲れてしまった。
いつまでも終わらないこの無限ループに。
あなたたちは知らないでしょう?
ただ死を待つだけの、あの薄暗く汚い牢獄の中で過ごす惨めさやその恐怖。
そして死ぬ瞬間の痛みを。
「事実は事実だ! 何を信じることがある。君には失望した」
「何度申し上げても、私は無罪です。レイラ様に何もしてはおりません。しかし正当に調べもせず、アレク様はこのまま私を断罪なさるのでしょう?」
「まだ言うか」
「何度だって言います! これが最後だと知っておりますから。他の皆さまも知っていますよね? 私がレイラ様をいじめてなどいないことも……。でも結局誰も私を助けてはくれないのですね」
きちんとそれを証明するために、いじめが起こるタイミングで証人となる人と一緒に過ごすなどしてきた。
しかしこの場において辺りを見渡しても、皆私から顔を背けるだけ。
関わり合いたくない。
そう言ってしまえば簡単だ。
たとえ私の命がかかっていると分かっていても……。
「もういい加減、失望しました……。この世界全てに……。結局誰も助けてくれない。私はこの檻の中から抜け出すことも出来ない」
「檻? なにを言っているんだ?」
アレクの言葉が終わる前に、私は隠し持っていたナイフを彼の胸に突き立てた。
辺り一面が彼の血で真っ赤に染まる。
みんなが固まって誰も動けない。
「きゃぁぁぁぁぁ」
誰の声なのか、叫び声がこのホールへ響き渡った。
しかし私は気にすることなく、更に隣で愕然とするレイラにもナイフを刺す。
「あははははははははははははは」
ただそれだけのこと。
死ぬことがどれだけ苦しくて痛いのか。
これでわかったでしょう?
いつも私だけが感じる苦痛など、どうして許せるのだろうか。
今日この日のために、ホールに警備がないことも私は確認していた。
「ねぇ、みんなも同じに逝きましょう? だって見殺しにしようと思ったんだもの。死の痛みと恐怖をプレゼントしてあげる」
無限ループから抜け出せないのなら、私も自分の好きにさせてもらうわ。
どうせ死ぬのなら、みんな一緒に。
私は辺り一面に火を付けた。
そう全てが赤で覆いつくさる。
幾度死んでも、何をしても、助けてくれない世界など私にはもう必要はない。
「この無限ループが続く限り、ずっと殺してあげる。私を愛して下さるまで、ね。ふふふ。次も楽しみだわ」
そう、これが私の今回の答え。
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