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「来てくれてありがとう」
「ああ、良かった、頭は痛くないかい。稀に記憶を無くす人がいる。考えようによっちゃそれが幸せかもしれない」
金原は玲子の額に人差し指を当てた。天中から山根までをしっかりと読み込んだ。
「お母さんの天命は?」
「ぼちぼちだね」
「あたしに親孝行する時間はないの?」
「君がその気ならその命を少しお母さんに回そう」
「そんなこと出来るの?」
「ああ、君の寿命を削ぎ取りお母さんの生命線に繋げる」
「お願い、そうしてください」
珠緒は金原に手を合わせた。
「構わないが代償が生まれる」
「いいわ、説明も不要」
金原は頷いた。
「お母さんは記憶を取り戻し15年をお父さんと楽しく過ごせる」
「お願い」
珠緒は目を瞑り額を突き出した。
「本当にいいんだね?」
頷いた。やはりこれが神の与えた天命である。掌を額に被せた。指が脳に沈んで行く。
「珠緒先生、テロリストが村を襲ってこっちにやって来るそうです」
「子供達を納屋に隠しましょう」
〔みんな、集まって、納屋に隠れるのよ、早くして〕
珠緒は一人一人を納屋の地下に入れた。
〔声を出しちゃ駄目よ〕
ジープが三台小学校に乗り入れた。銃を持った男達が職員を並ばせた。
〔子供等は?〕
痩せて目が窪んだ若い男が校長に銃を突き付けた。
〔子供等は?〕
校長から現地スタッフの頭に銃を突き付けた。
〔子供等は?〕
スタッフは目を瞑る。同時に頭を撃ち抜かれた。
〔子供等は?〕
現地の女スタッフに銃を突き付けた。
〔納屋だ〕
耐えられずに答えた。珠緒が走った。テロリストが追う。珠緒が走った方向は子供等が隠れている納屋とは反対側の鳥小屋である。柱の陰に隠れて追ってきた男を藁用のフォークで刺した。珠緒は小学一年生の時に仙人からもらった名刺がある。それをお守り袋に入れて肌身離さず身に着けていた。親指と中指で挟んで擦ればすぐに来る。だけど遊びは駄目だと釘を刺された。友達に自慢したくて何度か擦ったことはあるが現れなかった。『あたしとの約束守って』名刺を指で挟んで擦り合わせた。
〔いたぞ、撃ち殺せ〕
一斉にライフルが火を噴いた。
「癪、来てくれたの」
「癪、行くな、天命だ」
癪は羽ばたいて旋回した。
了
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