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「珠緒、人生には色んな事があるんだ。コロはお前が生まれた日にこの家に来た。兄弟と同じだよ。これからは空からずっと珠緒のことを見守っていてくれるからね。始業式から帰ったら庭にコロを埋めようね」
二人共7歳の我が子を、7歳ならこれぐらいの理解度だろうと慰めた。
「違うよ、コロは運命だよ。神様が迎えに来たんだよ。だから珠緒は全然寂しくないよ。ねえーコロ」
コロの唇を捲って犬歯を出した。一瞬コロが笑っているように見えた。夫婦は珠緒の態度に呆気に取られた。泣きじゃくりコロから離れないのではと心配していた。
「珠緒、始業式に行ける?」
恐る恐る聞いてみた。
「きまってんじゃん、健ちゃんと約束してるから。コロは埋めといて」
義勝は翌日会社を休んで玲子と精神科に相談に行った。担当医に内容を話した。
「お父さんは娘さんが死んだ犬に悲しみの表情を見せないことが気になさっているんですね?」
「はい、生まれた時から7年間ずっと一緒に暮らして来た犬です。普通なら悲しくて泣くでしょ。うちは所帯を持って10年目に生まれた娘です。他の子と違っていると心配でどうにもならないんです。先生、大丈夫でしょうか?」
夫婦は不安で胸が張り裂けそうだった。医師も普通の子なら泣くだろうと思っている。しかしそう言う説明は医師として適当ではない。
「娘さんはよく眠れていますか?」
「はい、熟睡しております」
「他に変わったことはありませんか?」
夫婦は考えた。
「ねえあなた、そう言えば珠緒が5歳の時の韓国で起きた事故、雑踏の中で多くの人が圧死した事故があるでしょ、あの時号泣していたわ」
「そう言えば、インドで吊り橋が落ちて大勢が亡くなったときも大声で泣いていた」
夫婦は珠緒が常人とは少しずれたラインで泣いているのを想い出した。
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