5人が本棚に入れています
本棚に追加
「先生、あの子は事件や事故そのもので泣いています。私達とはずれていませんか?」
医師も頷いた。
「確かに娘さんは大きな視点で物事を捉えているようですね。でも心配はご無用でしょう。成長するにつれ、言い方は悪いが狡さを学んで、私共と同じ視点で物事を見るようになるでしょう。もう少し余裕を持たれてみてはどうです」
夫婦は医師のまとめに納得して帰った。
「どうだったんだい、先生の所見は?」
夫婦が帰宅するなり勝代は玄関まで出向いて耳を傾けた。
「おばあちゃん、珠緒は?」
「ああ、疲れたから眠るって。泣き疲れたみたいだよ、テレビ観ていてワンワン泣いているんだあの子は」
「何のテレビ?」
「ヨーロッパで侵略戦争が始まったニュースだよ」
夫婦は見合って驚いた。
「だってまだ始まったばかりで犠牲者が何人とか判明していないじゃない」
玲子は勝代に喰って掛かった。
「そんなことあたしに分かるわけないだろう。あたしに当たるのも大概にしてよ」
勝代は腹が立って自室に戻った。
「あなた、珠緒の様子を見て来て下さい」
「俺が?」
義勝は気合を入れて二階に上がった。
「珠緒、起きているかい」
義勝はそっと部屋に入る。布団が揺れている。
「珠緒」
布団を少し捲ると枕を濡らして泣いている。
最初のコメントを投稿しよう!