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「分かった?」
「もう一度いいかな」
掌の生命線を額の中心に当てる。指を広げると小さい頭がすっぽり隠れる。その指が脳に沈んで行く。
「ちょっと酔うかも、船酔いに似ている」
「船に乗ったことない」
「じゃ、仕方ない」
珠緒の人生を読み取る。早回しして天寿の手前で止めた。
「ははあ、これか」
天寿が短い原因を突き止めた。24歳で珠緒はNGOに参加してアフリカに行く。12年間を難民キャンプの子等のために活動した。そしてテロ組織が学校を襲い子供等の盾になって一命を落とす運命である。金原は芽生えた時期を探る。15歳の夏、ある医師と出遭う。『薬一粒飲めば治る子供等がたくさんいる。注射一本で助かる命がたくさんある。私一人じゃ何も出来ないけど、同じ人間にどうしてこんな差があるのか不思議に感じた人達が集まれば何かが変わる』そう言われてもらった冊子が10年後に珠緒をアフリカに行かせた。この医師との出遭いを削り落とせば少なくとも銃弾に倒れることはない。金原は迷った。この子を救うかこの子に救われた多くの子等を犠牲にするか。小指で削り落とすことが出来る。触れた。しかし削らずに掌を戻した。
「どう、気持ち悪くなかった?」
「大丈夫、でも夢を見たような気がする」
「どんな夢?」
「私と同じ年ぐらいの子供達がいっぱいいた」
小指が触れた時に脳が敏感に反応したのだ。
「ねえおじさん、神様ってどんな人なの?」
「神様は人じゃない、神だよ」
「悪い神様もいるんでしょ。だって戦争を始めたんだもの」
珠緒は泣き出した。
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