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「ねえ、おばあちゃんが信用してくれないよ」
「それでいいさ、おばあさんは驚いて腰を抜かしてしまう。癪なんか見たらそれこそ死んでしまうかもしれない」
金原が笑うと珠緒も笑った。
「そうだこれを置いていこう。私の名刺だよ。親指と人差し指で挟んで擦れば私に通じるからね。ただし遊びには付き合わない。苦しい時、自分じゃどうにもならない時に呼んで」
金原は転生移動で部屋から消えた。
珠緒は両親や祖母の心配をよそにすくすくと育った。活発で利口で中学三年生で生徒会長も務めた。精神科には月一ずっと通い続けているが目立った異常は見当たらない。珠緒はただ両親が安心するから通院していただけである。そして運命の出会いが訪れた。
「今度あなたの担当になった中村と申します」
白髪で長髪の医師はペコンと頭を下げた。
「担当と言っても三か月でまた交代だけどね」
「よろしくお願いします」
珠緒はこの医師に好感を抱いた。
「あなたは親孝行だね」
「先生にはバレてました?」
「まあ、それもいいさ。親が安心するならそれに越したことはない。それに親が健在であることだけで幸せですよ。私は親がいない子供達を世話していましたからね。親子喧嘩するくらい幸福はありませんよ」
「先生はそう言う団体に加盟しているんですか?」
「ええ、小さなグループですけどね。またアフリカに行きます」
「どんなとこなんですか?」
「内乱が続いています。難民キャンプって聞いたことはあるよね。そこで親を失った子供等に医療を提供しています」
珠緒は中村医師の話に胸がときめいた。自分もそう言う仕事に就きたいと思った。
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