一妻多夫制解禁

1/15
24人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ

一妻多夫制解禁

「あら、ついに政府から『一妻多夫制解禁(いっさいたふせいかいきん)』の発表があったのね」 専業主婦の母、榎本尚子(えのもとなおこ)が、朝食を並べながら、ニュースの画面に視線を移した。その言葉に、私の横で、新聞を広げたまま、父であり医師の一也(かずや)が、黒斑眼鏡をキュッと上げて、ニュース画面を食い入るように観ている。 「お隣の神田(かんだ)さんも申し込みしたって。私もしたんだけど、一也、本当にいいわよね?」 「あぁ、勿論だよ。政府公認の少子化対策制度なんだから。そのかわり俺のことも変わらず愛してくれよ」 一也は、一重の瞳を更に糸の様に細めると、穏やかに微笑んだ。そして、その視線は、向かいに腰掛ける私に向けられる。 「沙羅(さら)も大丈夫かな?」 「沙羅は大丈夫よ」 一也の言葉に被せるように紡がれた言葉と尚子の笑顔は怖い。私に向ける笑顔はいつも目が笑っていない。 物心ついた時から、そうだった。 尚子は、その美貌と瓜二つの私のことを娘としてではなく、この家に住むライバルとして見ている。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!