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なるほどね。
やっとわかった。
2つ下の妹のアルバムはとても素敵だ。
優しい父、美しい母。父親似の私。母親似の赤ん坊の妹。
妹のお七夜、百日参り。
私のアルバムにはないものばかり。
「物置が火事にあってね。ボヤだったんだけど、アルバムが燃えてしまったんだ」と悲しそうに言う父と母。
パソコンにも残っていない。その頃父はデジカメじゃなく、フィルム写真を撮っていたらしく、そのネガも燃えてしまったらしい。
仕方ないね、大丈夫、妹のアルバムには2歳の私も写っているもの。
小学生の頃、二分の一成人式が学校であって。10歳の区切りに自分の歴史を振り返ると言う課題があった。
赤ちゃん時代の写真を持ってきて模造紙に貼る。
新聞のようなものを作って発表をするというもの。私は2歳のちょっぴり大きな「赤ちゃん」の自分の写真を貼った。
ちょっと不満で、
「そんなこといって!ホントは私貰われっこだったりして」ふざけて言う私に
「お父さんに瓜二つの貰われっこなんてあるわけ無いだろう」と笑う家族。
妹は「私の写真を貼るといいよ。」と言ったけどお断りした。私はそんなに美人な赤ちゃんじゃなかったはずだもの。
でも、今、高校生の私の目の前にはその空白のアルバムがある。
実の母だと名乗る人が差し出したアルバム。
そこには若い父と目の前の女性の若かりし頃、その間に居る私。
何枚も何枚もある。
「初めての子供だったから。嬉しくて嬉しくて毎日写真を何十枚と撮ったのよ。」
家に行けばビデオだってある、と母と名乗る人は言う。
沢山の写真の中に、黒く顔を塗りつぶした女性に抱っこされた私の写真もあった。
「これは…」
「ああ、これも紛れていたんだ。この人は今の貴女のお母さん」
「…それって」
「お父さんの会社の部下だったの。出産のお祝いを持って来たのよ。その頃にはもう、お父さんとは深い仲だったみたい」
母と名乗る人の言葉に不思議と疑う気持ちにはならなかった。
父の裏切りを知り、膨らみ始めたお腹をして現れた女を前に、土下座をして別れてくれと妻である自分にいう男を前に、この人は壊れてしまったのだ。
自殺を試みたが死にきれず。長い間病院に入院を余儀なくされたらしい。
子供わたしを育てることなんて出来なかった。
離婚の手続きの際、一切の娘のアルバム、ビデオを要求した。父だって残されたら困ったはず。
だって、誇らしい笑顔で娘を抱く女は新しい妻、新しい娘の母ではなかったのだから。
「私、もう長くないの。」
目の前の母は言う。その言葉に嘘は無いだろう。彼女はとてもとても痩せて今にも折れてしまいそうだ。
「あなたにこのアルバムを返してあげたかったの。私には身寄りがいないからこの写真も捨てられちゃうでしょう?それは嫌だったの。私のたったひとつの宝物だったから」
彼女に会ったのはそれが最後。
数ヶ月後に彼女が言っていたビデオテープが郵便で届いた。テープを元にしたDVDも同封してあった。
送り主は私自身の名前だった。きれいな字で書かれた私の名前を彼女はどんな気持ちで書いたのだろう。
リビングのテレビで、映像を見る。
妹は友達の家にお泊まり会で不在だ。
父と母は「なあに?学校の行事の録画?」
『うわぁ、見たか?今、俺を見て笑ったぞ!』
『アクビをしただけじゃないの?』
『いや!確かに笑った!なー、パパのことがわかるんだよなー。』
『あ、もう!大きな声出さないで、なきだしちゃったじゃない!』
笑いながら怒るあの人の声。慌てる父の声。声は不思議と歳を取らないのかなぁ。父の声は変わらない。一度だけあったあの人の声はあの時みたいなかすれ声じゃなく、若々しくて溌溂としていた。
私の後ろで固まってしまう父と母の気配がした。
「私さぁ、大学は県外にする。今日、進路届け出してきた。勝手にごめんね。」
普段から大学は自宅から通えるところ、なんて譲らなかった父は無言だ。
違うよ、お父さん。『このこと』が原因なんかじゃない。県外に私の行きたい学部があっただけ。
でも今ならお父さんは反対できないだろうな、って思ったのも事実。
ずるいよね、私。そんなとこまでお父さんに似なくてもいいのにね。
「勉強してくる!」
よっこいしょ!っと立ち上がりDVDを取り出すと、二階の自分の部屋に上がった。
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