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「別の歌手のひとは歌ったの。黒がいい、黒になろうって。なんの色にも染まらないからって」
「対照的だね」
「対照的でしょう?」
お母さんは、よし、こんなもんでいいかなって言って、布の端を持ってこっちに来た。
「綾乃はどっちがいいと思う。どんな色にでも染め変えられるか、どんな色にも染まらないか」
私とお母さんは、水に浸した布を畳みながら、はなしをする。濡れた布は、とても重い。
「どんな色にも染まらないっていうのは、強情な気がする」
私が言うと
「そうね。でも、どんな色にも染まらないぞ! って覚悟がないと、生きていけない世界もあるのかなって、お母さん思った」
とお母さんが答える。
「じゃあお母さんは黒がいいの?」
と言うと、それには答えずに
「これ。いい色に染まるといいわね」
と言った。
〈おしまい〉
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