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「ぎゃあーっ! どのような思考回路をすれば、そのような話になるのですか⁉」
レイラルド皇帝はライトブラウンの癖髪をかきあげながら、色気たっぷりに微笑んだ。
「世の男に生理的嫌悪感があるのは仕方のない話だ。歯を抜かれたライオンのように気概ないからな。案ずるな。私は別格だ。私ほど、逞しく頼もしい男を見たことがない。私ならソフィーネを満足させられる」
巨大帝国リンデルオールの皇帝は、とんでもないナルシストキャラだった。
(うげっ、気持ち悪い!)
頬を引き攣らせていると、ウォーム大神官が耳打ちしてきた。
「心配無用。誰にも聞こえないようにして、自分が勇者召喚術を唱えます。ソフィーネさんが勇者を召喚した、その事実が必要なのです。自分の承認がなければ、皇帝でもあなたを妻にはできません。ご協力を」
「分かりました!」
あたしの父は魔法省の大臣。父とウォーム大神官は幼馴染みであり、親友でもある。
あたしはウォーム大神官を信じて、イメージを開始する。魔法に必要なのは、強固で細微なイメージ力。イメージが魔力と合わさり、魔法となって姿をあらわすのだ。
【ソフィーネ脳内イメージ劇場。勇者召喚編】
輝く光と共にあらわれた勇者。
やった! 召喚が成功した! あたしってば、やればできる子。もう、落ちこぼれ魔法使いなんて呼ばせない!
冷ややかだったオルリンデの目が、尊敬へと変わる。
「お嬢様。今まで散々ポンコツ扱いをして申し訳ありませんでした。お嬢様は実に素晴らしい。一生お仕え致します。田舎で一緒にスローライフを送りましょう」
あたしたちは田舎に、赤い三角屋根の小さな家を買った。野菜を作り、飼い鶏の卵を食べ、ヤギのミルクを飲み、樹液のシロップを煮詰めてパンケーキにかける。ポーチで夕涼みをするのが日課。
「子供の頃から夢見ていた世界が本物になって、嬉しい」
「お嬢様は野菜についた虫に悲鳴を上げ、鶏の目を怖がり、ヤギを臭いと言い、シロップ作りを面倒くさがる。田舎に向かないのに、田舎に憧れるド素人。オレが一切の雑務を行いますから、お嬢様はポーチで漫画をお読みください」
「ありがとう。あと新しいドレスが欲しいわ。田舎暮らしといっても、お洒落心を失いたくないもの」
「承知致しました。では町に出て、ちょちょいっと金貨を稼いできましょう。オレがお嬢様を養います」
なんて素敵なオルリンデ。オルリンデはあたしの下僕なのだーーー!!
【ソフィーネ脳内イメージ劇場。田舎暮らし編終わり】
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