落ちこぼれ魔法使いソフィーネ

3/22
前へ
/64ページ
次へ
「ぎゃあーっ! どのような思考回路をすれば、そのような話になるのですか⁉」  レイラルド皇帝はライトブラウンの癖髪をかきあげながら、色気たっぷりに微笑んだ。 「世の男に生理的嫌悪感があるのは仕方のない話だ。歯を抜かれたライオンのように気概ないからな。案ずるな。私は別格だ。私ほど、逞しく頼もしい男を見たことがない。私ならソフィーネを満足させられる」  巨大帝国リンデルオールの皇帝は、とんでもないナルシストキャラだった。  (うげっ、気持ち悪い!)   頬を引き()らせていると、ウォーム大神官が耳打ちしてきた。 「心配無用。誰にも聞こえないようにして、自分が勇者召喚術を唱えます。ソフィーネさんが勇者を召喚した、その事実が必要なのです。自分の承認がなければ、皇帝でもあなたを妻にはできません。ご協力を」 「分かりました!」  あたしの父は魔法省の大臣。父とウォーム大神官は幼馴染みであり、親友でもある。  あたしはウォーム大神官を信じて、イメージを開始する。魔法に必要なのは、強固で細微なイメージ力。イメージが魔力と合わさり、魔法となって姿をあらわすのだ。   【ソフィーネ脳内イメージ劇場。勇者召喚編】  輝く光と共にあらわれた勇者。  やった! 召喚が成功した! あたしってば、やればできる子。もう、落ちこぼれ魔法使いなんて呼ばせない!  冷ややかだったオルリンデの目が、尊敬へと変わる。 「お嬢様。今まで散々ポンコツ扱いをして申し訳ありませんでした。お嬢様は実に素晴らしい。一生お仕え致します。田舎で一緒にスローライフを送りましょう」  あたしたちは田舎に、赤い三角屋根の小さな家を買った。野菜を作り、飼い鶏の卵を食べ、ヤギのミルクを飲み、樹液のシロップを煮詰めてパンケーキにかける。ポーチで夕涼みをするのが日課。 「子供の頃から夢見ていた世界が本物になって、嬉しい」 「お嬢様は野菜についた虫に悲鳴を上げ、鶏の目を怖がり、ヤギを臭いと言い、シロップ作りを面倒くさがる。田舎に向かないのに、田舎に憧れるド素人。オレが一切の雑務を行いますから、お嬢様はポーチで漫画をお読みください」 「ありがとう。あと新しいドレスが欲しいわ。田舎暮らしといっても、お洒落心を失いたくないもの」 「承知致しました。では町に出て、ちょちょいっと金貨を稼いできましょう。オレがお嬢様を養います」  なんて素敵なオルリンデ。オルリンデはあたしの下僕なのだーーー!! 【ソフィーネ脳内イメージ劇場。田舎暮らし編終わり】
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加