落ちこぼれ魔法使いソフィーネ

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「勇者なのか?」  レイラルド皇帝のつぶやきに、少年のふさふさ獣耳がぴくっと動いた。  犬が大好きなあたしは、一瞬にしてハートをがっちりと鷲掴みにされる。   「きゃわわ〜ん! なんて可愛いケモノ耳なのっ! 素敵!! あなたって犬族?」 「はい。僕は犬妖族です」 「おわっ! 尻尾も生えている! きゃわわ〜ん♡」    サスペンダー付きハーフパンツのお尻から、パタパタと上下に動くもふもふ尻尾がでている。  興奮のあまり荒い呼吸を繰り返すあたしを無視して、レイラルド皇帝は勇者に質問を始めた。    勇者の名前はレリール。はるか彼方にあるという犬妖国からやって来た。  レリールは十三歳。栗色のさらさらとした髪と潤む黒目、愛らしい顔立ちをしている。  女の子みたいな容姿にレイラルド皇帝は不信を抱いたのか、本当に勇者なのか尋ねた。   「勇者を名乗ったことはありません。なぜ勇者召喚に呼ばれたのか謎ですが……。おそらく僕には素質があるのでしょう。神の導きで招かれたのなら、運命に従うまでです」 「いやはや、謙虚な少年じゃ。あっぱれ!」  じいやが称賛の声をあげながら、長い白眉を撫でる。あたしもうんうん頷く。  レイラルド皇帝は、なぜ勇者召喚に至ったのか事情を説明し始めた。 「古来、地上を支配していたのは竜族であり、私達魔法族は彼らの奴隷だった。魔法族の中でも特に優れた者を大魔道師と呼んでいる。ちなみに私も大魔道師だ。現在、大魔道師は三人しかいない。それだけ大魔道師になる道は険しいということだ。だが私は二十歳で大魔道師となった。神は私に強大な魔力、智慧、権力、容姿、カリスマ性、統率力といった多くの才能をくださった」 (レイラルド皇帝、ちゃっかり自慢しちゃってる)  大魔道師になる才能などないあたしは、しらけた気分になる。 「三百年前。魔法族は自由を勝ち取るために反乱を起こした。大魔道師十三人が、竜族の頂点に立っていた魔王を倒した。だが……。そこにいる紫の祭服を着ているウォーム大神官は、未来が見えるという魔宝石を所持している。その魔宝石に、魔王が再び地上に君臨する未来が映ったのだ。そこで先手を打って、勇者を召喚した」 「魔法族の力を結集して、魔王を倒すことはできないのですか?」 「現在、大魔道師は三人しかいない。それに三百年も平和が続けば、攻撃魔法の質が落ちる。平和ボケした今の魔法族では魔王を倒せないだろう」  レリールは小首をコクンと傾げ、話の内容を咀嚼(そしゃく)しているようだった。その仕草の可愛らしさに、あたしの心臓はドクンドクンと波打つ。 「事情は理解しました。大魔道師であるレイラルド皇帝ほどの実力が僕にあるかは分かりませんが、この世界に呼ばれたからには尽力致します」  丁寧な受け答えに、じいやが唸る。 「この勇者殿は謙虚さと柔軟性を持っておる。あっぱれじゃ!!」 「うんうん。おまけに可愛い犬耳と尻尾がついていて、見た目も最高ですよねっ!」 「皇帝の下手に出るなんて、世渡り上手なヤツ。あざとい」  嫌味なオルリンデに、あたしはカチンときて嫌味のお返しをする。 「なに? 犬耳が羨ましいの? 欲しいなら作ってあげましょうか?」 「結構です。お嬢様が針で指を刺すのは目に見えていますから。血だらけの犬耳などいりません」  オルリンデは素っ気なく言い放つと、地下室から出ていった。
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