落ちこぼれ魔法使いソフィーネ

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 レリールは、ウォーム大神官とレイラルド皇帝に連れられて、宮殿の奥へと姿を消した。  あたしは召喚成功のご褒美をいただけるそうで、オルリンデと二人で来賓控室にて待つ。  薔薇の花びらが浮く香りの良いお茶を出されて気分が華やぐ。   「ねえ、オルリンデ。大魔道師の称号をもらえるかな?」 「途中の文言が抜けたインチキ呪文を使うようでは、大魔道師にはなれません。ウォーム大神官がどのような意図でお嬢様に力を貸したかは存じませんが、自分の手柄だと調子に乗っている姿が痛々しいです」 (ゲッ! 全部バレてるっ!) 「あははー。やだぁ。自分の手柄だなんて思ってませんよぉ。うふふ。ウォームおじさんったら心配性なんだからぁ。力を貸してくれたのはありがたいけれど、あたしを信じてほしいわ」  ごまかし笑いをしつつ、さり気なく責任逃れをしてみる。   「どんなご褒美をもらえるのかな? お菓子詰め合わせセットだったら嬉しいな」 「トマト村への招待状じゃないですか」 「トマト村……。そんな村があるの……?」 「北と西の大陸は未開の地。原始的な種族がいるそうです。トマト族がいてもおかしくないのでは?」 「いや、おかしいって。だってトマトって食べ物じゃん! 食べ物の部族って聞いたことないんだけどっ!!」 「確かに、トマトは食べ物です。友好の証に食べてみたらどうですか?」  オルリンデは常にクールで、感情を表にだすことがない。だがあたしには分かる。ほんの少し、右の口角が上がっている。無機質な表情に隠された、せせら笑い。  これは……トマト嫌いなあたしをバカにしているーっ!!  全世界のトマト嫌いな皆さーん!  トマトが嫌いな理由って、食感と臭いだよね? ヌルッとしたゼリー状の部分って、一歩間違えればナメクジと同類だと思うの。噛んで、プシューと果肉が溢れてくるのが気持ち悪い。  そしてなんといっても、あの青臭さ! プチトマトの青臭さは死刑に値する。  そんなトマトと友好の証など……。 【ソフィーネ脳内妄想劇場。トマト村へご招待、友好の証編】  トマト村は西の大陸の農村部にあり、見渡す限りトマト畑が広がっている。風に揺れてトマトの葉がカサカサと鳴り、トマトの青臭さが村中に充満している。  赤と緑の顔色をしたトマト村住民が、あたしを歓迎してくれた。 「客人には、新鮮なトマトを食べてもらうのがこの村の習わしとまとん」 「そこをどうかお願い。トマトの原型がなくなるまで煮詰めて欲しいの! ケチャップなら食べられる!!」 「そこまで言うなら、トマトぶつ切りサラダを出すことにするとまとん」 「いやぁん。話が通じな〜い!」  朝昼晩トマト料理。飲み物はトマトピューレ。おやつはミニトマト。水道の蛇口を捻るとトマトジュース。  家と窓と扉とテーブルと椅子とお風呂とトイレとベッドはトマトの形。さらに、カーテンと絨毯とタオルとパジャマとスリッパはトマト柄。夜はトマト族とトマト踊り。  あたしはトマトがさらに嫌いになった。  トマト滅びろ! 【ソフィーネ脳内妄想劇場。トマト村の悲劇、トマトとの溝はさらに広がった編終わり】    
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