霊界コンシェルジュ・マキタの多忙なる一日

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(おまえの友達、いいやつだったな) (うん……)  あの後、菊池は俺に「稔をどうぞよろしくお願いします」と丁寧に頭を下げて見送ってくれた。別れ際に「お手数を掛けました」と告げると、彼は「いいえ。来てくださったおかげで、俺のほうが救われました」と言って穏やかに笑った。  逆にめそめそしているのは甘木のほうだ。今頃になって(旭にあんな思いをさせてた俺、最低すぎる……死にたい)などと呻いている。いやもう死んでるし、とツッコミを入れようかとも思ったが、さすがにやめておいた。 (その、まぁ、なんだ。あの世に行く前にちゃんと話せてよかったじゃないか)  声を掛けると、甘木は(……それはそうだけどさぁ)としおれた表情で呟く。 (で。切符を受け取る覚悟はできたんだな) (ああ――、うん、それは。旭と約束したし。腹をくくってどこにでも行くよ)  その言葉を確認した俺は、「一月一日死亡の甘木稔、切符の手配をお願いします」と唱えて、スーツの右ポケットに手を突っ込んだ。 (おー。来た来た)  霊界コンシェルジュに支給された制服は、黒ネクタイに黒スーツ。上着の右ポケットは、天界から送られてくる切符の受け取り口になっている。ちなみに、左ポケットには天界からの通達が随時送られてくる仕様だ。  俺は右ポケットから小さな紙片を取りだした。それは一見ただの白い紙切れだが、れっきとした霊界への片道切符である。 (ほら、受け取れ。――じゃあな。おまえの行く先に何が待っているかは知らないが、これからも達者で暮らせるよう、祈ってるから) (うん。何もかも、すっごくお世話になりました。ありがと、マキタさん)  弱々しく笑うと、甘木は差し出された切符を受け取った。その途端、その体はうっすらと光を帯びる。足元からゆっくりと、甘木は煙のように消えてしまった。 (見送り完了)  ホッと一息つく。この仕事をしていて最も充足感が得られるのがこの瞬間……、であったはずなのだが。
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