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日替り定食A、480円。本日のメニューは、白身魚のフライ、レトルトのハンバーグ、マカロニサラダに千切りキャベツ、白米(大盛)と、薄い味噌汁、デザートには杏仁豆腐。
(おいしそう……)
背後で甘木の呟く声が聞こえる。学食内は混雑していたが、食堂の入り口がよく見える席をひとつ確保した。ここなら誰が入ってきても見逃すことはないだろう。
トレイを置いて席につくと、すぐ横に甘木が寄ってきて、定食のおかずに鼻先が付くほどの距離で見入っている。
(おまえのお勧めを注文してみたが、学食メシだし期待はできないな)
(えー? 意外とおいしいよ)
早速フライを食べてみる。……値段なりの安い味だが、思ったよりは悪くない。
(いいなぁ。俺、ほんとにもう何も食べられないの?)
(そもそも、この世のものには触れられんだろうが)
(……あ、ほんとだ)
俺の定食を恨めしそうに眺めている甘木というこの男、実はもう死んでいる。死人のくせにやたら陽気で掴みどころのないやつだ。
(マキタさんだって人間じゃないくせに! ずるい!)
(おまえという面倒な案件を片付けるために、今日は天界から特別に肉体を得る許可を得た。食事はそのついでというか、特別手当みたいなもんだ)
(テンカイ?)
(天の世界、天界だ)
(天界っていったら、えーと、天国みたいな?)
(さぁな)
天国、極楽、パラダイス? フライを平らげて、白米をかきこむ。少しパサついているが、悪くはない。
(どんなところなのかは、俺も知らない)
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