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1.怪しい女
とはいえ、このまま待っていても何も変わらないのではないか?
そう思った私は、思いきって話しかけることにした。
時にはこちらからの能動的な行動も物語の潤滑油になりえるだろう。
その日私は、いつものように平日の仕事終わり、家に帰る道を敢えて少し遠回りすることにした。
案の定、付いてくる女の足取りには戸惑った様子が見えたが、それでもしっかりとついてきていた。
やがて私は、女と少し距離が開いたのを確認すると歩く速度を早め、先の路地で物陰に隠れた。
しばらくすると、女の足音がした。
私を見失って動揺しているのか、慌ててついてきているようなドタバタとした足音だった。
その足音が近付くのを確認し、私は女の前に踊り出た。
急に現れた私の姿に、女はひどく驚いた様子で立ち止まった。
私は咄嗟に、
「驚かせて申し訳ない。」
と言ってしまった。
何を謝る必要があるのだろう。
変な気持ちになりながらも、身動きせず固まっている目の前の女に向かって話し始めた。
「…あのう、私のとこをずっとつけてますよね?いや、それはいいんですが、いや、いいというか良くはないですが、一体何が目的なのかな~と思いまして…」
自分でも不思議なくらい気さくに話しかけてしまった。
数ヶ月女の存在を感じていたので、独りでに親近感や顔見知りのような感覚が湧いていたのかもしれない。
しかし女は言葉を発しない。
(…参ったな。話しかけたのは間違いだったか…)
そう思った瞬間、女がバッグに手を入れ始めた。
(な?ナイフでも出たらどうする?)
私は咄嗟によくわからないが身構えた。
よく考えると身を守る術が何もないことに気付き冷や汗が出た。
が、女がそろそろとバッグから手を出すと、そこには封筒が握られていた。
「こ、これを読んでもらえませんか。また、また私、一週間したらこの辺りに来ます。その、その時に改めてお返事をう、伺います!」
女はそう言うと、踵を返して走り去っていった。
・・・一体何なんだ??
煙に巻かれたような不思議な気持ちのまま、封筒を開けてみると、中には手紙が入っていた。
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