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3年前、取引先の企業との合コンで、私は同僚の子たちに誘われて、半ば無理やりそれに参加させられた。
興味のなかった私は、同僚の数合わせのために駆り出されたのだ。
あの頃の私は就職して一年目で、心身ともに疲弊していた時期だった。
地元の大学に進学し、卒業し、そして都会で就職。
これを機に生活環境を一新するつもりだったので、上京してから身の回りの物を買いそろえた。
だから実家から持ってきたのは高校時代から読んでいた、この恋愛小説くらい。
自分もいつかはそんな恋愛が出来るものだと信じていた。
ドラマのように都会に出れば、キャリアウーマンとして美しく華麗に立ち回れる。
困難も降りかかるが、それを彼氏に助けられ、協力しながら成功を収め、最後はハッピーエンド。
私もそんな小説の主人公のような人生を歩むものだと、勝手に思い込んでいた。
しかし現実は違った。
いくら頑張っても出世はしない。そもそも任されない。仕事を回してこない。有能な人間の間だけで仕事が回されている。
実際仕事といえば、雑用じみたもの。
職場環境はドロドロしていた。女子トイレでは鏡を前に、みんなが悪口陰口愚痴ばかり。
そんな話は聞きたくなかった。
あいつが失敗したとか、不倫してるとか。調子に乗っているだとか。
現実の人間関係は小説の紙よりも軽く、薄く、燃えやすかった。
そんな時に出会ったのが、彼だった。
合コンで出会った彼は、知的で洗練された好青年に見えた。
少なくとも、あの時の私にはそう見えたのだった。
まだ、都会の知らない私。
彼はいろんなことを知っていた。
美味しい小料理店。
お酒の美味しいイタリアン。
夜景の奇麗な高層ビル展望台。
海が綺麗な海浜公園。
流行りのアパレル。
高価なアクセサリーと、その取り扱い。
遊びから、ショップ、デートスポットまで。
ガイドブックにも、小説にも書かれていないことを、たくさん教えてくれた。
それが彼を、魅力的に映し出していたのかもしれない。
彼なら……
彼なら私に無いものを書き足してくれる。
そして、私という一冊の本を、最後まで一緒に読んでくれると思っていた。
大勢の中の一人。人間性などは必要とされていなかった都会。
職場では、私という中身などは関係ない。
結果と成果がすべてで、途中までのストーリーには一切意味がない。
そんな環境で疲れ果てていた私を、私という主人公の本を読んでくれている。一人の人間として接してくれているかと思っていた。
……しかし、それも間違いだった。
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