一章〜体育祭練習〜

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 坂崎(さかざき)(わたる)と遠い手を繋ぐようになったせいか、相手の首筋からかおる汗の匂いに興奮を覚えるようになった。  八月を過ぎても残暑に体をやられて、汗だくになっては教室内の天井に備わっている扇風機に頼るしかない九月。  昨夜は恋人の家に泊まって、遅刻ギリギリに家を出た。そのとき俺の制服シャツが汗だくになっていたので、渉の物を急遽借りてきた。洗濯されているはずなのに、相手の香りが鼻先をかすめる。  机に伏して、もぞりと両足をすりあわせた朝のホームルーム。学級委員長が前にでて、体育祭の紅白を分けるくじ引きをするといった。もうそんな季節かと、俺は顔だけを前に向けてあくびをかみ殺す。  うちの学校の体育祭は九月に実施される。クラス別に紅白をわけるのではなく、クラス内で紅白をわける。そのため、隣の席の仲のいい奴が違う色になるなんてザラなこと。  委員長が袋に入ったくじを、一人一人の席をまわって引かせていく。俺もそのうちの一つを引いた。紙には≪紅≫と書かれていた。前の席に座っている大翔(ひろと)の物を覗けば、≪紅≫。三年間、同じ色同士だ。 「今年も同じかよ……」 「お前とは腐れ縁だな……まぁ、一緒に頑張ろうぜ」 「なに、今年は出る気あんの?」 「(のぶ)さんに出ろっていわれてるしな。それに、最後だろ。記念だよ、記念」  最後と言われて、俺もそうだなと頷く。  全員がクジを引き終わってから、授業がすぐに始まった。携帯を取り出してみるが、渉にメールを打とうか迷っていた。相手から何の連絡もないところを見ると、おそらく昼休みに直接言うつもりなのだろう。何色だったのか、気になってしまう。  それでも聞くことが憚られて、携帯を閉じたり開いたり。そんな風にして四限までの授業を寝るか、携帯を開くかして過ごした。
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