十一日目

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十一日目

 その瞬間、息が止まるかと思った。  次いで、俺が取った行動はというと、慌てふためき、 「ど、どうし……」  たのか、と問おうとして、視線を下げた。そして、着替えを腕にかけた幼馴染が手に持つそれに気付く。  驚いた。自分でもびっくりしてしまうほどの衝撃に襲われたことが。一気に力が抜けてしまう。思わずその場にしゃがみ込んだ。 「おい、歩武どうした?」  不思議そうにこちらを覗き込む幼馴染を、恨みがましく睨み付けた。 「こっちの台詞だわ~。――泣いてんのかと思ったし」  はぁーっと大きく声に出して息を吐きながら、水泳帽を取った。幼馴染は鼻で笑う。 「なんでだよ」  にやにやとした笑みを浮かべている。  自分も「だよな」と小さく囁いた。 「さ~な。タイム悪かったから、とかー?」  投げやりに言ってみる。そんなわけがないことは知っている。 「今更」 「嘘つけよ、ダントツのくせに」 「そういうお前は?」 「泣きたいのはこっちですよ」  ふて腐れて見せて、立ち上がる。ははっ、と乾いた笑い声が耳について、少し腹が立った。 「泳ぎだけ早くてもな」  ふんと、背を向けてロッカーを開けた時、そう後ろで呟くのが聞こえた気がして振り返る。  視線に気が付いたようにこっちを見た幼馴染の表情は、別に何も変わらなかった。だから、聞き間違えだったのかもしれない。 「この後どーする?」  幼馴染に問われて、浮かびかけた思考は霧散する。別のことを思い出したからだ。 「おもしれーもんがあるから、一緒に飯食おうぜ!」 「おもしろいもんって?」 「ついて来てからのお楽しみ!!」
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