十二日目

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十二日目

 昼休みが終わり、次の授業は移動教室だった。  教科書を教室に忘れたままだった俺は一人、廊下を小走りに急いだ。  移動先の教室が見えた時、前を歩く女子生徒が何かを落としていった。  足を止めて拾い上げた時、後ろから教師が俺を追い越して行く。半開きにした教室のドアの前で教師は、俺を振り返り「早く席に着け」と急かす。  落とし物は家の鍵だった。小さなマスコットのチェーンがついている。いかにも、女子が好きそうだ。  そっと制服のポケットに忍ばせておく。  誰がこれを落としたのか、皆目見当がつかない。落とした人物は果たして気付いているのだろうか。周りを見渡して見ても、判明しそうになかった。  授業を終え、続々と教室へと帰っていくクラスメイトたち。席についたまま全員を見送り席を立ち、落とし主を捜す。落とし物を捜す女子生徒を。  教室に向かう廊下をゆっくり辿り、教室が見えてきた頃、一人の女子生徒が慌てたように教室を飛び出して来た。床を見渡しながら戻って行こうとする姿を、呼び止める。 「落とし物なら、これじゃない?」 「……そう! それ! 今気付いて……拾ってくれてたのね。ありがとう!」 「授業前に拾ったんだけど、誰が落としたのかわからなかった。探しに戻ってきてくれてよかったよ」  鍵を手渡しながら、なんとなくそのまま一緒に教室に戻る。  あまり女子の顔を覚えている方ではない。でも、安堵した様子で「よかった」と繰り返す女子生徒の横顔が、いつかの光景とダブって見えた。   最近様子のおかしい友人の言葉を思い出す。――そうだ、そういえば名前は。 「宮澤って、この前の放課後もしかして音楽準備室にいた?」  振り返った宮澤は、虚を突かれたようだったが、すぐに頷いて笑った。 「ああ、歩武君から聞いたの? 幼馴染なんだってね」  初めて話した宮澤という女子生徒の、その何気ない言葉を、なぜか俺はすんなり聞き流すことができなかった。
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