染まる

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「私達は結婚式挙げてないからこの子にはウエディングドレスを着て欲しいな」  妻は産まれたばかりの娘を抱いてそんな事を言っていたっけ?「産まれたばかりで結婚とか何言ってんだよ?」俺は大慌てでベッドに近づいたけど赤ん坊をどうやって抱いたらいいか分からず、ただただオロオロしていた。  先日、その娘が彼氏を連れてきたのだ「貴様にお義父さんと呼ばれる覚えはない!」とか「何処の馬の骨とも分からんヤツに娘はやらん!」とか言いたかったが、ホントに誠実そうな男だったので密かに思っていた人生プランの一つが立ち消えになった。  そんな事を思い出すと自然と笑みが溢れる、ウエディングドレスが純白なのは純粋や無垢を表してたと思うけど、誰かが「あなた色に染まります」って意味もあるとか言ってたな、妻はウエディングドレスを着なかったので、逆に俺が染まってきた感じがする。  似た者夫婦ってのはお互いがお互いに染まってくるから似てくるんだな。 「ただいま」  暗い廊下の隅で、留守番電話の赤いランプが静かに点滅していた。  
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