採用面接

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「今の社長では、その要望は叶わないねえ」 「ええ。社長は絶対に変えません」 「でも、その社長が辞めるのよ。会社に飽きちゃったんだってさ」 「息子さんいたじゃないですか。跡を継ぐとしたら、その人しかいないのでは?」  年齢も二十代後半と聞いている。同族経営にしたい社長は多いだろうに。 「あの子のことは社長も見限った。他の人には内緒だけどね、社長が出資していくつか会社やらせたのよ。だけど全部ポシャった。何でも経費で落として、結局すごい借金して、社長が肩代わりしたんだ。そのせいで副業が本業になっちゃったんだから、良いんだか悪いんだか分かんないね。ただ、社長はもうこの会社を維持することは嫌だって言ってる。副業が儲かるんだってさ。それ一本でやりたいって言ってね、うちの社員の生活なんかどうでもいいって言い出す始末」  普段の態度からも人望がないのは明白だったが、そこまで言っちゃえば社員からの信頼なんて得られるはずがない。常務のこの言葉をコピーして配れば、社員の相当数が退職届を持ってくるだろう。 「だけど、会社を社員のために譲るって言ってさ、次期社長を自由に選んでいいって言うのよ。社長は祝井さんを面接官に指名した。おれもそれがいいって言った。珍しく意見が合ってね、そういうわけで、これ決定事項だから。ぜひとも求人頑張って、素晴らしい次期社長を採用してよ。言ってみれば『社長解禁』かな。社長を面接で選べば、祝井さんは次期社長の上司みたいになる。つまり人事部は、次期社長を雇用し、評価し、管理する部署。その部長には祝井さんがなるべきだ。社長の上に人事部がある。面白そうでしょ」  だから裏のボスか。であれば、会社の富の再分配も可能だ。私が自らを律することで、会社のため、社員のため、顧客のため、ひいては自分のため、安定した会社の安定した正社員を実現できるかも知れない。赤字経営になってからでは遅い。今すぐに人材を募り、視野が広く才覚のある次期社長を採用しよう。少なくとも私は人間というものを観察してきた。社長という肩書に相応しい優れた人材を見抜く目は持っているつもりだ。
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