採用面接

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 経費精算書の内容を眺めるたびに、私は気持ちが()()()ってくる。  特に営業の連中は、こんなものを食ってるのか、こんなものを買ったのか、と腐れリッチな無駄遣いをしているから嫌になる。  私がお金を出すわけじゃないんだからいいだろう、と、やれうなぎ弁当だの上焼肉定食だの、そんなのはまだ安い方で、やれ『ビュッフェ椿(つばき)』だの『ホテル(いち)(よう)』だのといった領収書まである。  ネットで調べたところ、これを経費で落とさせたと武勇伝のように語っている馬鹿はいて、『ビュッフェ椿』はセクキャバらしく、『ホテル一洋』はソープらしい。ご丁寧に写真まで上げているから間違いない。うちの営業どもはそのビュッフェで何を味わい、ホテルで何の仕事をしたのか。うなぎ弁当の比ではない。この領収書は何があろうと突き返す。私は厳しくチェックする。何故なら最近、我が社に何となく怪しい気配が漂っているからだ。  強気なワンマンの社長は、どうやら副業が本業になっているようで、近頃は本業である我が社への熱意が薄い。まだ傾くとまではいかないが、このままでは斜陽企業になる可能性が高い。だから営業どもの無駄遣いを許すことはできないのだ。 「ねえ、(いわ)()さん」  背後から名前を呼ばれた。振り向くと、常務が軽薄そうな笑みを浮かべている。しまった、と思った。PCの画面は『セクキャバ椿』のホームページを開いたままだ。 「副業するつもり? 祝井さんなら、まあ、うちにいるより稼ぐかも知れないけどね」  常務の眼が、私の胸に落ちてきた。だから蔑むように鼻で笑ってやる。 「(かず)(はま)さんがここの領収書をよこしてきたんですよ。裏付け取ってたとこです」  営業の名前を出しておく。告発と受け取ってくれて構わない。 「おれもここの領収書出したことあったなあ。そんときは経費で落ちたけどね」  なるほど、これは我が社の伝統みたいなものか。つまり真犯人は常務ってことだな。
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