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プロローグ
その日、私は山開きで登山解禁されたばかりの富士山の山頂に、高校生の妹の理紗と一緒に登っていた。時間はまだ午前三時半で、日の出は午前四時二一分。私達の目的は富士山の山頂でご来光を拝む事だった。
この山頂では周りに人工の光源も無くて、本当に綺麗な星空を見ることが出来る。私は東の空を見上げてあの星を探した。その赤い星は直ぐに見つかって思わず笑みが浮かぶ。
空を見上げている私に理紗が声を掛けて来た。
「お姉ちゃん、あれ火星ね。お姉ちゃんが行く予定の……」
妹のその言葉に大きく頷く。そう私は火星探査の宇宙飛行士にアサインされている。でも……。
「ねぇ、お姉ちゃん。火星まではどのくらいかかるの?」
「十ヶ月かな。でも今年はあと二ヶ月しか打ち上げの窓がないから難しいわね。それを逃すと二年先になってしまうわ。残念だけどまだ火星への有人飛行は禁止されているからね……」
現在、火星への有人飛行が各国で競われていて、火星への最初の到達が一部の国の既得権益にならないように、昨年から国連で論議が行われていた。『火星条約』と呼ばれるその国際条約には、火星の平和的利用、領土主権の凍結等が含まれていて、この火星条約の採択を待って火星への有人飛行が解禁される予定だった。
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