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カコとおばあちゃん
はっとするほど鮮やかだった庭の紅葉が、ひとつ残らず枯れ葉に変わっていることに気付いたのは、ある冬の日の午後だった。
葉がすべて落ちた枝の間から、高く高く突き抜ける蒼空を見た。
吉乃がその眩しさに目を細めたとき、インターホンが鳴って、可愛らしいお客さまがやって来た。
「おばあちゃん、開けてー。カコだよぅ」
インターホンのモニターにうつる、つむじ。
小学三年生の孫、香子だった。
吉乃の家のすぐ向かいに住んでいて、学校帰りや休日に、よく遊びに来てくれる。
両親と、二歳になる妹との四人暮らし。
昔は父親に手を引かれていた孫も、もう九つ。
祖母の家までなら、一人で訪れるのになんの支障もない。
何かといえばおばあちゃん、おばあちゃん。
香子は、父方の祖母である吉乃のことが大好きだった。
「はぁい。今行くからねえ」
扉を開くと、少しそわそわした様子の香子と目が合う。
黒々と丸い瞳や、きりっと上がった眉は、父親の武久の幼い頃を彷彿とさせる。
ランドセルを背負っているところを見ると、下校してから、一目散に吉乃の家へ寄ることにしたらしい。
「おばあちゃん、今ヒマしてる?」
「そうだね。とくに用事はないね。おじいちゃんのワイシャツに、アイロンかけるくらいで」
「ああ良かった! ねえねえ。あたし今、何持ってるでしょうか」
赤いチェックのスカートが、楽しそうに揺れる。
「あのねえ、香子ちゃん。いきなりそう言われたって、普通の人は分からないんだよ」
「でも、おばあちゃんなら分かるでしょ?」
「私だって、分からないこともあるさ。けど、そうだね……」
吉乃は、にやっと笑った。
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