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カコが見つけた本当のカギ
話終わって、香子は、コタツテーブルの上に指輪とハートのカギを置いた。
「おばあちゃん、どうしてピアノからまた別のカギが出てきたんだろう。この指輪は、いったい誰のなんだろう」
吉乃は香子から聞いた話を思い返し、父親と母親の一言一句を並べて、整理する。
引き出しのカギをなくし、困っていた武久。
中には大切な何かが入っていたらしい。
クローバーのカギがぴたりとはまったピアノ。
中から出てきたのは指輪と、ハートのカギ。
「香子ちゃん、その指輪の内側に何か文字が見えるかい。歳をとるとどうにも。私じゃ読めなくてね」
吉乃は指輪をつまんで、孫の手にたくす。
「まかせて! えっと……Tかな。それからメガネみたいなマークと、A」
銀の指輪の内側に刻まれたアルファベット。
メガネみたいなマークとは∞だろう。
T ∞ K、これはイニシャルだ。
Tは武久のイニシャル。
Kはおそらく前妻の恭子。
そういうことか、と吉乃は目を細める。
クローバーのカギがピアノのカギなら、ハートのカギは仕事机の引き出しのカギだ。
武久は引き出しの中に、前妻との思い出のマリッジリングをしまい、カギをかけていた。
元妻との過ぎ去った日々を忘れられずに、大切に閉じ込めていた。
しかしそのカギを後妻である飛鳥が見つけた。二年前、このとき飛鳥は妊娠中。
お腹には、武久との子供である明澄がいた。
普段、穏やかな飛鳥からは思いもよらない行動だが、妊娠中の情緒不安定な時期というのもあったのだろう。
彼女は引き出しから指輪を取り出し、ハートのカギで開かなくした。
そして指輪とハートのカギを、自身が管理するピアノの蓋の中に放り込んでしまった。
飛鳥はピアノにカギをかけた。
クローバーのカギを使い、誰にも知られないよう、己の心に蓋をしたのだ。
香子への接し方が微妙に変わったのも、仕事部屋へ足を踏み入れなくなったのも、ピアノを弾かなくなったのも、すべての起点は二年前にあった。
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