カコが見つけた本当のカギ

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開かずのピアノは放置された。 運悪く、香子がクローバーのカギを拾ってしまうまで。 カギが見つかった場所から察するに、それは洋服ダンスにしまってあった。なんらかの拍子に、落ちてしまったのだろう。 たおやかで、包み込む優しさを持つ飛鳥さん。 自分の娘ではないにもかかわらず、香子に愛情を注いでくれた。 香子は飛鳥を、本当の母親だと信じている。 彼女は良き妻、良き母であろうとした。 その姿は近所でも評判だった。 けれど、そんな彼女にも暗い一面があり、我慢ならないことがあった。 出て行った前妻に劣るのではないか、という不安。 本当は夫も子供も、前の妻、真の母親を望んでいるのではないかという疑念。 このカギは、その暗い気持ちに蓋をしていたのだ。 だとしたら。 彼女が自らを律して、爆発させまいと必死で抑え込んでいたのだとしたら。 「香子ちゃん。パパとママは好き?」 「うん、だあいすき! あ。妹のアスミちゃんのこともね」 だとしたら、カギによって抑止されていたものは、むやみに解き放つべきではないのかもしれない。 少なくとも、孫がもう少し大人になるまでは。 「香子ちゃん。この指輪とハートのカギは、またピアノの中にしまっておいで。それから、こっちのクローバーのカギは、お母さんに返すんだ」 「ええっなんで。せっかく開けたのにぃ」 「このことは、香子ちゃんと私の秘密だよ」 あなたのお母さんはきっと多くのものを抱え込んでいる。なんて難しい話、今の香子には必要ない。 「おばあちゃんって、やっぱり魔法使いなの? なんでも分かってるみたい」 香子の頭が左に傾く。 「ふふ。そう言ってるうちは、カギのことは忘れておくんだね。ああそうそう、おばあちゃんがひとつ魔法の言葉を教えてあげよう」 「なになに、教えて」 「帰ったらね、『お母さん大好き』って伝えておあげ。妹の明澄ちゃんは確かにちっちゃいけどね、お姉ちゃんだからって変に遠慮しすぎる必要はない。香子ちゃんも我慢しなくていい。甘えたいときは甘えたっていいんだよ」 それが鬱屈した心を解禁する、一番のカギだから。 吉乃は胸の奥で願う。 いつか再び家族の想いが解かれたとき、大人になった香子をまじえて、真っ直ぐに向き合えるように。
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