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「何か小さい棒のようなもの……カギ、かしら」
「うわぁ、セーカイ! おばあちゃんてやっぱり、魔法使いみたい」
「んふふふ。そうね。おばあちゃんは魔法使いかもしれないね」
なんて、そんなわけがない。
さっきインターホンのモニター越しに、香子がポケットからカギを取り出しているのを見たからだ。
でも正直に話せば、孫がガッカリするのは目に見えているし、何より夢がない。
だから吉乃は「おばあちゃんは魔法使い」で通している。
まさか信じてなどいないだろうが、香子は面白がって、この話に乗ってくれる。
「それで? そのカギはどうしたの」
香子が見せてくれたカギは、シンプルな棒状のタイプで、持ち手の部分がクローバーの形になっている。鉄錆色をしていて、昭和レトロな宝石箱に似合いそうだった。
「洋服ダンスのすき間で見つけたんだよ。おばあちゃんはこれ、なんのカギだと思う? 可愛いからつい、持って来ちゃったけど」
「今どきあんまり見ない形だね」
「おばあちゃんのじゃない? ウチに遊びに来たとき、落としたとか」
「知らないねぇ。お父さんとお母さんには訊いてみたの」
「まだだよ。だって、一番におばあちゃんに見せたかったんだもん」
本当は「これは魔法の扉のカギなんだ」と言ってもらえることを、期待して来たのかもしれない。
「その気持ちは嬉しいけどね。まず、ランドセルは置いといで。あと大事なものかもしれないから、やっぱりお父さんとお母さんには訊かなきゃだめだ」
「はぁい。わかったよぅもう」
香子は唇をとんがらせた。
吉乃と離れたくないのか、はたまた自宅へ帰るのがおっくうなのか。
いずれにしろ香子は、自分の家より、祖母の家のほうが居心地がいいようだった。
それが分かっているから吉乃もついほだされて、「ランドセル置いたらまたおいで」なんて声をかけてしまう。
そして孫の顔には、ぱぁっと花が咲くのだ。
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