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時計の長い針が一周して、そろそろ夕飯の下ごしらえをはじめようかという頃。
再び香子がやって来た。
ランドセルを背負っていないところを見ると、一度はちゃんと自宅へ戻ったらしい。
玄関口で出迎えてやると、少女は瞬く間に吉乃の脇をすり抜け、こたつの中へすべり込んだ。
なるほど、しばらく居座る気でいるのね。
吉乃はあきれながらも、自分を慕ってくれる孫の行動をいじらしく思った。
気の利いたお菓子はないけれど、みかんでも用意してあげましょうと、温かい緑茶とセットでテーブルに並べる。
「で。なんのカギだか、分かったの」
ミカンの皮をむく香子に話しかけると、すました表情が得意げに変わった。
さて、いったいどこのカギだったのやら。
ゆっくり話を聞くために、吉乃も斜め向かいに腰を下ろす。
「おばあちゃん、また当ててみて」
「そんなの、私に分かるもんか」
「さっきは当ててたじゃん」
「魔法は一日一回まで。さ、香子ちゃんの話を聞かせて」
「ふふん、しょうがないなぁ」
香子は言葉とは裏腹に、姿勢を正して語りはじめた。
「あたしがうちに帰ったらね、お父さんがキッチンに立ってたの。今日はテレワークだって聞いてたけど、休憩したくて仕事部屋から出て来たみたい。お父さんはコーヒーメーカーに粉を入れるところだった。あたしはその隣に立って、お父さんを見上げてこう尋ねたんだ」
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