カコとお父さん

1/2

39人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

カコとお父さん

「ねえお父さん。お母さんとアスミちゃんは?」 ふたりとも、姿が見えなかった。 「郵便局に小包を出しに行ったよ。すぐ戻るんじゃないか?」 また、ふたりだけでお出かけしちゃったんだ。 妹の明澄(あすみ)ちゃんが生まれてから、お母さんとはなんとなく、距離ができてしまったみたい。 お母さんはきっと、あたしより明澄ちゃんのほうが好きなんだと思う。 あの子があたしの髪を引っ張っても叱らないし、小さな手のひらで叩いてきても注意しない。 二歳児の力だって、叩かれれば痛いのに。 お母さんが何も言ってくれないから、あたしは苦笑いしてるだけなんだ。 妹に対して、どんなにイライラしても我慢する。 だってお母さんともう一度ちゃんと、仲良くなりたいから。 あのさ、おばあちゃん。 お姉ちゃんになるって、そういうこと……なんだよね? 「そういえば、お母さんが香子のオヤツを用意してくれてたよ。冷蔵庫の中になかったかな」   「えっ、そうなんだ。お母さんの手作りお菓子、すごく久しぶり」 しぼんでいた心が、むくむくと元気を取り戻す。 お母さんはお菓子作りがとても上手だった。 あたしがリクエストすれば、ケーキでもプリンでも、なんでも作ってくれた。 もうずいぶん前のことだけど。 お母さんのオヤツのことは、すごーく気になる。 でもそれより先に、確認しなくちゃいけないことがある。 「お父さん、お仕事まだヘーキ?」 「ん。なんだい」 「これなんだけど、お父さんのカギ?」 「どれ……。あ」 コーヒーの液体が落ちるのを、無言で眺めていたお父さん。あたしが袖を引くと、ようやくこっちを見てくれた。 あたしの手のひらに視線を落として、息を呑むと、「貸して」の一言もないままにカギをかすめ取ってしまう。 「これ、いったいどこで見つけたんだ。いや、待てよ、形が違うか……?」 「ちょっとお父さん、勝手に取らないでよ!」 「ああ、悪い。なあ香子、もしかしたらこのカギ、俺のかもしれない。ずっと前から探してたんだ。自室の状差(じょうさ)しにしまっておいたはずなんだが、いつの間にかなくなっててな」 「え、そうなの。じゃあお父さん、見つけたあたしに感謝しないとねっ」 誇らしい気持ちで、あたしはお父さんと一緒に仕事部屋へ向かった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加