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お父さんの部屋は雑然としていて、足の踏み場もないくらいとっ散らかっている。
床に分厚いファイルが積み重なってるかと思えば、郵便物が開封された状態で段ボールの中に詰め込まれていたりする。
そんな汚部屋(この言葉、最近知ったんだ)の片隅に置かれた、アンティークな机。こげ茶色で艶感ある机には、引き出しがたくさんついている。
お父さんはその一番上の引き出しに、カギをあてた。
カギ穴が、カチカチと音を立てる。
「あれっ、クソ」
「お父さん、口悪いなぁ。あたしにはいっつもきれいな言葉でしゃべるように言うくせに」
「ごめん、つい」
「……それ、違ったの?」
「ああ、ここのカギじゃなかったみたいだ」
「その引き出しには、いったい何が入ってるの」
「それはだな、うーん。お父さんの大切なもの……としか言えないな。もう、大切にしたってしょうがないんだけど」
「そんな大事なものが入ってるなら、いっそむりやり開けちゃえばいいのに。机なんか壊してさ。……あ! 引き出しの下からトンカチで叩いたら穴が開くんじゃない?」
「あっはっは。香子はすごいこと考えるな。うん。でもな、大人になると、そうやって思い切れないこともある」
「ふぅん? 大人の事情なんて知らないけど。カギはいつなくしたの」
「いつだったかな。明澄が生まれる前にはもう、開かなくなってた気がする」
「何それ! 二年も前ってこと? お父さん、部屋を片付けないからこうなるのよ」
あたしがお母さんの真似をしてそう言うと、お父さんは、確かにその通りだと苦笑した。
それにしても……。
思い返してみれば、昔はお母さんが、仕事部屋を掃除していた気がする。
文句を言いながらも、積まれた書類を整理して棚にしまってくれたり、郵便物を仕分けして不要なものを捨ててくれたり。
ここまで散らかってなんか、いなかった。
今こんなに散らかっているということは、お母さんがお父さんの仕事部屋に、足を踏み入れなくなったということ。
お母さん、赤ちゃんが生まれて、忙しくなっちゃったのかなぁ……。
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