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幕間:おばあちゃんの思い
「香子ちゃんはお話が上手だねぇ。なんにせよ、そのカギはお父さんのじゃなかったわけだ」
吉乃はひとくち、緑茶をすすった。
渋い味が舌の奥に広がる。
「そうみたい。お父さん、引き出しが開かなくてガッカリしてたけど……なんとなくね、ホッとしてるようにも見えた」
「ホッと? そうかい。カギをなくしたのは、明澄ちゃんが生まれる前だってね」
「うん。お母さんのお腹がおっきいとき」
「武久もね。昔っから片づけのできない子だったけど、もう少ししゃんとしていれば」
「でも優しいよ?」
「そうだろうけどもさ」
吉乃は、我が子を思ってため息をついた。
武久は子供の頃からぼんやりした息子で、お嫁さんをもらうならしっかりした女性じゃないとダメだと思っていた。
人当たりが良くて、仕事も勉強もそこそこできるがマイペース。
前妻の恭子さんと折り合いが悪くなったのは、息子のそんな性格に原因がある。
ただ思うに、恭子は恭子で自由奔放、かつ我の強い女性だった。結婚という枠組にはまるような性格ではなかった。
付き合っている間は良くても、結婚した途端に息苦しく感じることもある。
彼女は生まれたばかりの香子を夫に託し、離婚を申し出た。赤子は、母親の希望とはなり得なかった。
恭子が出て行ったあと、武久はひとりで香子を育てることに不安を覚えた。
吉乃の家の向かいに移り住んだのは、そのためだ。
そして香子が三歳になる頃、幼い子にはやはり母親が必要だろうと、今の妻である飛鳥さんと籍を入れたのだ。
幸い、二人目の妻は実の子ではない香子のことも受け入れ、本当の母親のように接してくれている。
「おばあちゃん、さっきの話の続き、聞く?」
「もちろん。まだ謎は解けていないものね」
「うん! あのね。今度はあたし、お母さんを待ってたんだ。リビングで手作りパウンドケーキを食べながら。そしたらね、すぐに帰ってきたよ」
「うん、それで」
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