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カコとお母さん
お母さんと妹は、郵便局で用事を済ませて帰って来た。
のんきな妹の明澄ちゃんは、お母さんの抱っこ紐に包まれて昼寝をしていた。
今ならじっくり、話を聞けると思った。
「おかえりなさいお母さん! アスミちゃんも」
「ただいま香子ちゃん。明澄、寝てるからしぃね」
「うん。小声で話す……。あのね、お母さんに訊きたいことがあって」
あたしはクローバーのカギを差し出した。
お母さんは息を止めて、あたしの手のひらを見つめる。
「これ……」
「タンスのすき間に落ちてた」
「香子ちゃん、そのカギ返してくれる? お母さんのカギだから」
「ほんと。そしたらあたし、開けるとこ見てていい?」
「えっ……うーん。見てても面白くないわよ」
「見つけたのあたしだし、ちょっとくらいいいでしょう?」
いつもはこんなワガママ言わないんだけど、このときばかりは駄々をこねた。
おばあちゃんに結果を報告しなくちゃ、と心に決めていたからだ。
「……分かったわ。じゃあ、一緒に来てくれる」
「やったあ」
お母さんは明澄ちゃんを布団に寝かせて、小部屋へ向かった。
そわそわしながら、あたしもその背中を追う。
ピアノが置いてある部屋だ、と思う。
というかピアノしか置いていない部屋。
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