1*卵焼きで離婚しかけた夫婦を知っている

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1*卵焼きで離婚しかけた夫婦を知っている

 卵焼きって、大抵の家で「うちの味」があると思います。甘いの、しょっぱいの、おねぎが入ったの、エトセトラ……。ミズカミの家は母が甘いのを作っていましたが、父が定年後に料理に目覚めて、出汁巻名人になってしまいました。そのため、今は実家に行くと必ず薄味の出汁巻が出ます。毎回、味が微妙に違うのはご愛敬です(笑)  ある日、友人夫婦から相談されたことがありました。「離婚するかもしれん」と。驚いて話を聞きに行ったら、事の発端は卵焼きでした。夫が甘い派、妻がしょっぱい派で、お弁当に入っていた妻作のしょっぱい卵焼きを、夫が「これは無理」と言った事から冷戦が始まってしまったようです。  まあ、どこの夫婦も実家の味の違いでケンカになること、一回くらいはあると思うんですが、卵焼きって子ども時代の記憶と繋がっているせいか、どっちも譲れなかったみたいで、お互いが好きな味を作ればいいのに、勝ち負けを決めずにいられなかったんですね。 「あんたらもう、家で卵焼き食べるのやめたら?」  結局その意見が採用されました。今はどうか知りませんが、ケンカの火種を作らないようにしばらくは家庭内で卵焼き禁止令が敷かれた模様です。根が深いですね、卵焼き。  ミズカミは特にこだわりがないので、あらゆる卵焼きに手を出します。築地で売ってる甘い卵焼き、関西のじゅわっとやわらかい出汁巻き、割り下みたいな味付けの甘辛い卵焼きも大好きです。家にお客さんが来るときは、明太子と大葉(しそ)とか、アンチョビとチーズなど、お酒に会う卵焼きを作ったりもします。  一応、厨房の隅っこにいた人なので、銅の専用鍋も持っています。厨房用品店に行くと、主に関東で使われる東(あずま)型と、関西で多く使われる西型に分かれているので、どっちを買えばいいのか迷う方もおられるでしょう。もし甘い卵焼きを作るのであれば、正方形に近い東型で奥から手前に巻くとうまくいきます。反対に縦長の西型は、ゆるい出汁巻きを手前から細かく巻いて行くのに適しています。  使い始めは鍋を鍛えるのが少し手間ですが、そのうち一生物のお宝になるので料理好きな方はぜひ。練習したらお店で売っているような、きれいな形の卵焼きが焼けるようになります。  ちなみに、料理の本などに「マヨネーズを入れるとふわふわに」というハックが掲載されていますが、実はマヨネーズではなくオイルでもふわっとできます。オリーブオイルやごま油、好きな風味のオイルを少量入れて、しっかり馴染ませて時間を置かずに焼くのがコツです。また、ほんの少しみりんを入れても、口当たりがやさしくなります。  卵って懐が広いので、いろいろ混ぜ込むのも美味しいですよね。スタンダードなのはねぎですが、青のりをたっぷり入れたのもミズカミの大好物です。お酒のつまみなら、紅しょうがを刻んだものも乙なものですし、はんぺんを刻んで入れるとボリュームが出ます。  ああ、書いていて卵焼きが食べたくなってきました(笑)今夜はおでんの残りがあるので、出汁巻きをさっと煮て食べるのもいいですね。関西のおでん屋さんには、ネタに出汁巻きがある店が多いです。大根おろしを上にのせて、熱々の煮汁をかけていただけば、日本酒にぴったりのおつまみの出来上がりです。
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