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☆
中学二年生の時、俺と小川は同じクラスだった。小川は教室のリーダー格で、なにをやっても許される雰囲気があった。
2学期が始まって、俺たちのクラスに飯島という男子が、転校して来た。飯田は長身の痩せた男子で、声が小さく、いつもおどおどしていた。
小川はそんな飯島に、たびたびちょっかいを出した。飯島が嫌がるあだ名をつけたり、飯島の言葉づかいをからかったりした。
担任の先生がやめろと注意しても、「こんなの、ただの遊びじゃん」と言って、からかいをやめなかった。
小川のやっていることはいじめだと、俺は感じていた。だけど俺は小川に、やめろと注意できなかった。
なぜなら、俺が小川になにか言って、今度は自分がいじめられるのが怖かったのだ。俺は目を閉じて、小川が飯島をいじめている様子を見ないようにした。
その後、飯島は学校に来なくなった。担任の先生は、「飯島は両親の都合で、もといた学校に帰った」と言った。
俺はきっと、小川のいじめが原因だろうと思った。俺は飯島への申し訳なさと同時に、もういじめを見なくてもいいんだという安堵を感じた。
それから小川は飯島なんて初めからいなかったみたいに、友達とサッカーで盛り上がっていた。小川には自分が飯島をいじめたという自覚が、全くないようだった。小川の無自覚さに、俺は胸がずきずきした。
自宅に帰った俺は、椅子に座って、一人で考えた。小川は飯島をいじめた自覚はない。そして飯島は、何も言わずに教室を去ってしまった。担任の先生も今回のことについて、俺たちになにも言ってこない。つまりこのクラスに、いじめなんてなかったのだ。
俺がイライラしても仕方ない。俺は小川と飯島の件を、きれいさっぱり忘れようと思った。
☆
小川と再会してから、2週間後。俺はとある企業の最終選考に進んでいた。会議室で、俺ははきはきとした声で、面接官に話した。
「私が学生時代に頑張ったことは、アルバイトです。私は雑貨屋でアルバイトをしていまして……」
面接官は俺の言葉を聞いて、熱心に頷いてくれた。面接官の反応は、かなりよかった。もっといいことを言おうと、俺は笑顔で自己PRをした。
「私の長所は、優しいところです。私はどんな人とも仲良くなれます。大切なのは、寛大な心です」
その後も俺は堂々と、面接官の質問に答え続けた。
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