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俺は改めて、小川のことを考えた。
小川は飯島をいじめたいう自覚が、一切ない。
先ほど女子生徒に水がかかったことも、小川は気づかなかった。小川はなにも気づかず、楽しそうにしている。どうしてこんなやつが、先生になれるのか。
俺は、首を横に降った。でも、どうしようもない。自分の行動に無自覚な人間にいくら反省を求めたところで、意味がない。
小川は、いつまでも小川のままだ。
その時、公園のスピーカーから音楽が鳴った。「夕焼け小焼け」だ。俺にはそのメロディーが、とても無責任で、能天気に聞こえた。
女子生徒はうつむいたまま、まだ立ち上がろうとしない。
それを見て、俺はこれから自分が本当に社会でやっていけるのか、急に不安になった。
俺はこれまで面接で、自分をよく見せるため、偉そうなことをたくさん話してきた。だけど実際のところ、俺は中学生の頃から、なにも成長していないのだ。
俺はまだ、未熟な子どもだ。でもだからといって、あの苦い中学生活をもう一度やり直すことも、嫌だった。
俺は前にも後ろにも足を動かすことができず、その場に立ち尽くした。「夕焼け小焼け」のチャイムが、少しずつ、終わりに向かっていく。
俺はそのメロディが早く終わってほしいと思った。だけど同じくらい、終わってほしくないとも感じた。
(了)
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