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「志望動機、もう少し考えてくればよかったなぁ。面接官の反応も全然だったし……」
面接からの帰り道、俺はとぼとぼと道を歩いていた。しかし疲労で、足が思うように動かない。着ている薄っぺらいスーツも、今は戦国武将の鎧みたいに重たく感じる。
俺、江尻隆也は、都内の大学に通う、大学4年生だ。ついに就職活動が解禁されて、俺はこれまで何十社も面接を受けてきた。しかし俺はまだ、内定を一つももらえずにいた。
俺がため息をつくと、前方に公園が見えた。すると公園のスピーカーから、「夕焼け小焼け」が聞こえてきた。夕方5時を知らせる、防災行政無線のチャイムだ。そのメロディーは俺の疲れた体に、よく沁みた。
すると公園に、スーツ姿の男性が立っていた。俺は彼を見て、「もしかして、小川か?」と叫んだ。
小川は俺を見つめると「おお、江尻。久しぶりだな!」と言って笑った。小川はがっちりとした体格で、黒髪を短く刈っていた。肌も、陽によく焼けている。
小川弘人は、俺の中学時代の同級生だ。小川とは中学卒業後、一度も会っていなかった。
俺たちは公園のベンチに座って、久々に話をした。そして話題は、就職の話になった。
「ほんと、就活って大変だよな。で、小川はどこの業界を目指しているんだ?」
俺の言葉に、小川は頭を掻いて笑った。
「実は俺、中学校の先生を目指してるんだ。今、教育大学に通っててな。今度教育実習があるから、今日は実習先の学校に挨拶に行ってきたんだ」
小川の言葉を聞いて、俺はもやもやした気持ちになった。しかし俺は、「そうなんだ。頑張れよ」と無理やり笑った。
それから俺たちは互いの連絡先を交換して、その場で別れた。しかし歩き出した俺の足取りは、先ほどよりも重かった。俺は、後ろを歩く人たちに次々抜かれた。
さっき小川と再会したことをきっかけに、俺は中学時代の過去を思い出してしまった。そして俺はぐっと奥歯を噛んだ。
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