2.シングルマザー

14/16
前へ
/47ページ
次へ
 その日は彼に、激しく熱情的に抱かれたことを今でも覚えている。  あの日の夜は、本当に素敵な夜だった。 たった一回の過ちだったけど、そんなのを忘れさせてくれるのかのような、濃密で甘い時間だった。 「でも君はなかなか見つからなかった。名前も知らないし、住んでる場所も知らなかった。だから君を見つけるのに、こんなに時間がかかってしまったよ」 「……あなた、変な人ですね」  一夜を共にしただけの女にまた会いたいとか、変な人だ。 たった一回セックスしただけの女に、情が湧くなんて……。  この人はおかしいと思う。 「俺もそう思うよ。君とこんなに会いたいなんて……本当に変だと思う」 「じゃあなんで……?」  どうして私を探そうとなんてしたの? 「……君の涙が忘れられなかったんだ」 「涙……?」 「君が俺の腕の中で、あの日流した涙が……なぜだか忘れられなかったんだ」  私の……涙? 私、あの日泣いてた……?  それすら、全然覚えていない。 「その時から君が、頭から離れられなくなったんだ」 「……じゃあなんで、あなたはあの日先にホテルを出たんですか?」  起きたらもう、彼はベッドにいなかった。そんなの、信じられない。 
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1100人が本棚に入れています
本棚に追加