3.家族になるための時間

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 そう言って俯く私の頬を、片倉さんは優しく包み込む。 「由紀乃、それを決めるのは俺だよ」 「え……?」  片倉さんの強い眼差しに、目が逸らせない。 「俺が誰と幸せになりたいのか、誰と生きていたいのか、誰を幸せにしたいのか。……それを決めるのは、俺だ」  そんな力強く言葉を言われて、片倉さんの本気を感じてしまった。 「……はい」 「君を幸せにしたいと思うのは本当だ。もちろん……あの夜のことで君を悩ませて、妊娠させてしまったことは、本当に申し訳ないと思ってる。だからこそ、君に償いがしたいんだ」  私への、償い……。 「君が果琳を産んだことで、それをもし後悔してるのなら……」  私は片倉さんのその言葉を遮って「それは違います」と告げた。 「え?」 「それは違います。……果琳を産んだことは、後悔なんてしていません」  私は何かを勘違いさせてしまっているのだろうか……。だとしたら、申し訳ない。 「本当に……後悔しなかったのか?」  後悔しなかったと言われれば、ウソになるかもしれない。 「……もちろん、後悔したこともありましたよ。 でも母親になると決めたのは……。果琳を産むと決めたのは、誰でもなく私です」  果琳を産んだことで、その後悔は消えたんだ。
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