並んだ名前

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 あれから月日はながれ、受験が終わっても、父との話し合いはなかった。  まぁ、私の生みの親が生きていて、名のりを上げてきたならともかく、もう亡くなってしまっている。  どんな理由や事情があっても、父も凪子の母も加害者なわけだし。どんな言い訳も相手がこの世にいない限り詭弁になってしまうだろう。    夏のオープンキャンパスも、アパート探しや仮押さえも一人で行った、と言えればいいが、全て多聞くんが一緒に行ってくれた。  アパートは年内に仮押さえをしておいたほうがいい、とか、受験に失敗したらキャンセルできる、なんて情報も多聞くんから教えてもらった。  多聞くんは、私の受験校と同じ県の更にランクの高い難関大を受験することになっていた。  アパートはあんまり大学の近くだと溜まり場になりかねないから、と私の受けるA大と多聞くんの志望校のX大の中間点に決めた。もちろん別々の部屋だ。  多聞くんと私の仲はまだまだ、「親しいクラスメート」をほんの少しだけはみ出したくらいの進展具合だ。  凪子に言わせると 「これだからガリ勉カップルはじれったい!」らしい。  凪子はあれからバレーボール部のアタッカーと付き合い出したらしく、夏に無断外泊をして母親からこってり絞られていたが、「次は断ってから行くね!」とケロッとしていた。  一時期、小林彼方ともデートをしていたように思うが、発展はしなかったようだ。  凪子に言わせると「同族嫌悪ってこういうことかー、って思った」とか。何があったかは聞きたくない。    無事、大学に合格した私は、例の通帳を父と母に渡した。進学にかかる費用は二人が出してくれると言ってくれたので、その足しにしてほしい、と言って。  両親は絶句していたが、暫く考えたあと、 「これは、真愛が結婚するときや独立するときまで預かっておく。」と言った。  私にも異存はなかったから頷いた。  高校を卒業して、引っ越しをして、新しい家具を配置した。多聞くんは一人暮らしのマンションから家具を運んだけど、私は「お値段以上」と謳っているお店からシンプルな家具を選んで運んでもらった。  大体の配置が終わった頃、同じように引っ越したきた隣の部屋の住人に挨拶にいく。 「どう?整理できた?」  声を掛けると、新しい隣人は振り向く。 「ま、なんとか寝るところを確保できればあとはぼちぼち。真愛は?」 「家具屋さんに大体運んでもらったから。あ、テレビの配線やってないから、多聞くんの方が済んだら頼んでいい?」 「了解。その前になんか飲もうか?ココアも買ってある。」 「いいねー、じゃあ、マグカップ持ってくる!」 「あー、それならある。彼方から合格祝いと引っ越し祝いにペアのマグカップもらった。」  困ったような照れくさいような顔でいう多聞くん。 「実は私も凪子からペアのカップもらった。」  顔を見合わせて笑い合う。 「じゃあ、そっちに行ったときはそれでコーヒー入れてくれ。」 「ん。」  あの時のテストの順位表のように、私と多聞くんの部屋は並んでいる。  多聞くんは相変わらずいつも聞き上手だし、私も自分自身を愛してあげようと思っている。多聞くんが私を呼ぶ「真愛」は私の心を温めてくれる。  名前はいつも誰かの「願い」が込められていると思うから。    名付けた人も、呼ばれる人も、呼ぶ人も。 完
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