美少女降臨

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美少女降臨

 妹のいる普通科と私のいる特進科の校舎は別棟にある。  だから妹が私のクラスにやってくることは、妹が入学してから一度もなかった。勿論私が普通科を訪れることも。  彼方が凪子が私の妹なのかと聞きに来たその日の昼休みに、なぜだか凪子は私の教室に来た。 「お姉ちゃん!ヤバイの!ジャージ、持ってる?忘れてきちゃった!午後体育あるのに!」  突然飛び込んできた「超絶美少女」にクラスはざわめいた。  勉強第一、受験生といえども美少女にはみんな興味があるらしい。特に我がクラスは男女比が偏っている。男子が女子の2倍ほどいる。女子もオシャレや美容よりも今は受験戦争を勝ち抜くことに気を遣っている。  学内推薦で付属大に進む者も少なくないが、希望する学部、学科に入るには上位をキープするしかないのだ。  そんなクラスの雰囲気に、イマドキ女子、明るい色に染めた髪を緩くまとめ、薄く見える化粧をした女子力高めの美少女は完全に浮いていた。 「うわぁ!凪ちゃんだ!生だ!」  アホな声を上げるのは言うまでもなく小林彼方だ。 「あ、はじめまして。真愛の妹の凪子です。えっと、小林先輩ですよね。」 「え?俺のこと知ってるの?」 「有名ですよ!私ら普通科でも。カッコよくて、オシャレで、しかも特進A組ですもんね!」  自分が一番可愛く見えるだろう角度で凪子は彼方を見上げる。完璧だな、すごいなぁ、と私は感心する。  170という身長の私に対して、凪子は153センチ。180近い彼方にとってみれば小さくて守ってあげたい存在に見えるだろう。 「はい、これ、ジャージ。大きいと思うけどね。捲くって使いなさいね。」  自分のジャージを差し出す。 「もう!お姉ちゃん!私がチビなの馬鹿にしてるでしょう?」  口をすぼめて頬をうまい具合に膨らます。  私がやったら明らかに不細工になるに違いないその表情は、普段から鏡の前で練習してるのか?と思うほどに可愛らしく決まっていた。  チラ見する男子たちが見とれているのがわかる。 「ほら、早く教室帰らないと昼休み終わっちゃうよ」 「はーい!」  そう言いながらも、凪子はチラチラ教室を覗いている。 「? なに?どうかした?」 「えっと…、ううん、何でもない。」  自分の校舎に帰ろうとして、凪子が振り返った時、教室に帰ってきた大男とぶつかりそうになった。 「きゃっ!」 「…っ、おっと、」    大木氏だった。  反射的に大木は凪子の肩に触れて、衝突を和らげようとした。小柄な凪子はすっぽりと大木の手のひらに収まるようだった。  凪子は、大木を見ると顔を赤らめ、消え入りそうな声で  「大木先輩…」と呟いた。  漫画かドラマのシーンみたいだなー、とぼんやりと私は眺めていた。  
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