お宅訪問

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お宅訪問

 意外というか何というか、あの日の勉強会から塾のない日は大木氏と自習室やファミレス、カフェなどで一緒に勉強する機会がしばしばあった。  定期テストが近いある日、自習室もファミレスも満員の日があった。   何軒かまわって、最後の候補地のカフェも空いている席はなかった。 「あー、ここも駄目かぁ。聞きたい問題があったんだけどなぁ。どうする?公園とかでもい?」  季節は初夏で特に今日はかなりの暑さだった。  大木氏は少し考えて口を開いた。 「北村さえよければ家に来るか?」 「え?ご自宅?いやでも、突然お邪魔したら悪いんじゃない?」  「別に構わん。多少散らかっているがもともと一人暮らしだしな。」 「え?」  いろいろな意味で驚いた。一人暮らしなんて聞いていなかった。そもそも、一人ならこんなに頻繁に私と自習室やカフェで勉強する必要はないんじゃなかろうか?  どうしよう?一人暮らしの男子高校生の家にお邪魔してもいいのだろうか?いや、やっぱり不味いでしょう。私達はただの友達、クラスメートだし、いや、付き合ってたら付き合ってたでそれは意味が違ってきそうだし。  でも、暑い。めちゃめちゃ暑い。涼みたい。  それに、凪子みたいなカワイイ女子力高め女子なら「貞操の危機」みたいなのもあるかもしれないが、私なんて貞操というより低層だし、って、何言っちゃってんの?私?  わずか数秒の間に色々考えた。 「あれ?大木とマナ?」  カフェから他校の女子と出てきたのは小林彼方だった。彼方は二人の組合せに目をくりくりさせた。 「うわ!偶然!え?何?お前ら付き合ってるの?」 「違う」「違います」  うるさい奴にあったなぁと思ったが実際私と大木氏は付き合ってなどいない。二人共あまり表情筋が動かないタチなので平然と答える。 「ふーん、まぁ、あんまり想像できないもんなあ。それにしても二人共相変わらず冷静だよねー。からかい甲斐がないよね」  何が楽しいのかケラケラと彼方は笑う。一緒にいる彼女は早く二人きりになりたいだろうに…。 「北村ってさぁ。」彼方がじーっと私を見る。 「なんか、アレだよな。名前、逆のほうがあってるな、妹と。お前、いっつも何事もなかったように佇まいが『凪の海』だよな。」  一瞬、ほんの一瞬、指先が震えた。見えないようにそっと手を握りしめる。  落ち着け。自分に言い聞かせる。 「…彼女、あんまり待たせるな。じゃあな、俺たち帰るから。」    大木氏は触れるか触れないかの力で背中を促した。私は黙って足を進めた。 暫く無言で歩いていて、気まずさに私は言葉をたれながす。 「あ、カフェ、小林が出てきたなら席空いたんだよね。ごめんね、いやー、そういうの気づくの遅くてさー、だからケアレスミスとか無くならないのかな?この間の模試でも…」 「北村」 「…妹はさ、気が利くんだよね、昔から、ほら、私と違って愛されキャラだし…ほんと、小林の言う通り『真に愛され』るのは妹の方なんだよね!」 「北村!」 「え?あ、何?ごめん、気に触ること言った?」 「…、ここ、俺のウチ」  ファミリー向けのマンションが目の前にあった。  え?ここに一人暮らし?  
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