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大木氏は、それでもコーヒーメーカーでコーヒーを淹れてくれて、温めた牛乳をその中に入れてくれた。
「砂糖、白砂糖しかないぞ。料理用の」
「いらない。ありがとう。」
大木氏は、自分のカップにはブラックのままコーヒーを注いだ。
「アパートのさ、家賃ってどれくらいだろう?」
私が大木氏に聞くと
「まあ、そりゃ条件次第だろう。でもあんまり安さばっかりを考えても治安やら交通の便やらで却って高く付く。」
「だよねー。」
「親御さんは?なんて言ってる?」
「うーん、まだ具体的にはなんにも。…実は志望校さえ言ってない。うちを出る、ってだけ言った。」
「って言っても、大学の授業料だのアパートの敷金やら家電やらかかるだろう。」
「まぁ、それはね、ほら、うちら、今授業料、免除じゃない?」
特進Aクラスは授業料が自動的に免除になる。更に大木氏は一位ということでその他に毎年賞状と金一封を贈呈されている。
あれ?金一封っていくらなのかな?現金?クオカードとかだったりして。おっと、話がそれちゃう。軌道修正して話を続ける。
「もともとね、妹と同じ額の授業料は貯金してくれてて。卒業までAクラスなら貯まった分は大学の資金にするといいって言われてたんだ。」
「でもそれじゃ学費は賄えても生活費は無理だろ?奨学金制度を使うのか?」
「いやー、それだと結局は親に余計な相談しなきゃだしねぇ」
「余計な、って…」
「あはは。…大木氏、えっとさ、ちょっと重い話してもいい?」
「…いいけど。言いたくないなら無理するなよ」
「なんだよー、さっきは便秘になるから出せって言ったじゃん!」
「女子にそんなこと言うなっていったのは誰だ?」
「それはさー、大木氏が…」
「名前。」
「え?」
「名前で呼べ。」
「あー、急に?」
「北村は、覚えてないか?俺の名前。」
「いや、知ってるし、高校3年間常に一位の場所にフルネームで、でかでか載ってるし」
「まあな。最後までその定位置にいるはずだ。」
「うわっー、これだからこの男は!じゃあ名前にあやかって聞いてもらおうかな。『多聞』くん」
「………。おう。」
「え?ちょっと!やめてよ変な間。」
「仕方ないだろう。久しぶりに家族以外から名前を呼ばれた。妙に照れくさいな。」
「いや、あんたが呼べって言ったんだし!」
二人でなんだか熱くなった顔をごまかすようにコーヒーカップを傾けた。
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