お宅訪問

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 スキナオンナ  多聞くんは確かにそういった、と、思う。  スキナオンナ?  え?いや、勘違い?  隙のオンナ?とか?好きな音頭とか?いや、音頭ってなんだよ。  好きな女、だよね?え?誰が?真愛、って言ったよね?  まーなー、とかじゃないよね?って私いつまでこんなグルグルしてる?  グルグル、グー…。  さ、最悪だ。こんな場面でお腹がなった。  女子力欠乏症にも程があるよね?いや、もしや聞こえなかったかもしれない。 「腹、減ったよな?」  聞こえてましたー!! 「すみません、TPOをわきまえないお腹で。」 「なんか、飯でも、って思うけど。真愛、門限とかあるのか?」 「門限?え?って今何時?」 「9時ちょい過ぎ。」  く、9時?嘘でしょ?え?時空超えた?  塾もない日にまたしても遅くなる連絡しなかった!また凪子にキレられる!  スマホを取り出して着信履歴の数に焦る。 「ヤバいかも…」 「…送ってく。」 「え?いや、いいよ!一人で帰れる!明日テストだし!申し訳ないよ!」 「一人で夜道歩かれる方が気になって何も手につかない。送らせてくれ。」  うわっ!何そのイケメン的な発言!照れる。  赤くなるのを見られなくなくて下を向いて 「お願いします」と言った私は間違いなく女子だった。  電車で3駅、駅から歩いて10分。  帰宅する頃には10時近かった。 「た、ただいま」  バタバタと家族全員が玄関に出てきて。物を言う前に、多聞くんが頭を下げた。 「申し訳ありませんでした。真愛さんの同級生の大木多聞と申します。今日は遅くまでお嬢さんを連れ回してしまいまして本当にすみませんでした。今後はこのようなことがないようにしたいと思います。」  家族はポカンとして固まった。 「それでは今日は失礼致します。真愛、これ。」  多聞くんが一冊のノートを差し出した。 「え?何?」 「多分、真愛が引っかかってる問題。俺は今日そのノート使わないから貸しとく。真愛はなんでもすぐ結論に走ろうとする癖がある。経過を見ろ。それが大事。あと、睡眠はちゃんと取れよ。また明日。おやすみ。」 「うん。ありがとう。おやすみなさい。」  もう一度深く家族に頭を下げてから多聞くんはドアを開けた。 「あの!これ、良かったら!」  いつの間にか凪子がタッパーに夕飯のおかずであろう唐揚げを入れて多聞くんに差し出した。  相変わらず凄い女子力だ。 「いや、でも…」 「良かったら食べて。お母さんの唐揚げ、美味しいよ。いつも凄い量揚げるからまだまだあるはず。」  遠慮する多聞くんに私も押しつけた。 「…じゃ、遠慮なく。ご馳走様です。失礼します。」  多聞くんはそう言うと夜道を帰っていった。
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