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さようなら、愛しい×××
別れは突然だった。
べつに別れたくて別れたわけじゃない。いうなれば運命、いや、宿命ってやつなのかな。そりゃあ、このままずっと。ずぅっと一緒にいたかったよ。あなたもきっと、そうでしょう?
でもね、世の中にはどうしようもないこともあるの。
思い返せば随分と長い間を共に歩いてきた。まだなにものにも染まらない、いたいけで純粋なあなた。悪いことを覚えて見た目も中身も擦れてしまったあなた。ふと憑き物が落ちたように好青年になったあなた。少しずつ、シワが刻まれてきたあなた。
どんな時も傍にいた。これからもいられると思っていた。
残念だなあ。わたしはね、あなたが結婚したって子供が出来たって気にならなかったの。あなたが幸せだったなら。あなたの一番ではなくても良かったの。寧ろ、わたしがあなたの一番だったことなんてあったかな。ああ、でも、あの頃はよく構ってくれていたっけ。
『あー!クソ、金髪にしたぐらいでマジでうっせえよなあ』
生活指導の先生に髪の毛を掴まれて説教を喰らったあなた。
『過去イチ綺麗に染まったのによー』
『美的センス持ってねえなアイツ!おまえもそう思うだろ?』
可哀想だけど笑っちゃった。ううん、ごめん。あれ痛かったよね。でも嬉しかったよ。一緒に悪さをしたみたいで。嬉しかった。
あとは、もう、緩やかに。穏やかに。日々は過ぎていったね。
欲をいうのなら。最期に見る顔はあの時のように。ぶつくさと文句を言いながらも愛しいものに触れるような、温かで優しいものであって欲しかった。これはわたしのワガママ。無理なことはわかってる。そうだとしても。出来ればそんな、悲痛な顔は見たくなかった。見せて欲しくなかったし、させたくなかったな。
ごめんね、愛しいひとよ。
ぐるぐると、廻る走馬灯。ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる。
熱くて大きな手のひらから呆気なく落ちて、濡れた床を往生際悪く滑っていく。忘れないで。たまには思い出して。なかったことにはしないでよ。お願い。排水溝に吸い込まれていくわたしを。
「うわ、またごっそりいったな。昔はイケメンだのなんだのってちやほやされてたけど。今となっては俺も――立派なハゲ親父だわ」
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