飛び込んで

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 まだこの人が理解できない。  何故一人の人を愛さずに、割り切った関係だけを求めるの。  それを及川さんは、どんな気持ちで受け入れたんだろう。  自分のことに置きかえて考える。  好きだった恋人が、私と親友どちらも愛したとしたら、私は受け入れたんだろうか。  それくらい、彼のことを愛していたんだろうか。 「う……」 「前ちゃん……バカタレ進!」  だめだ。まだ情緒不安定。  それはもちろん、振られたことによるものじゃない。  セットになってどうしても突きつけられてしまう、母を失った現実だ。 「悪かったよ。そんなに俺のこと好きだなんて知らなかった」 「……違いますけど」 「急に引くな。感情の起伏が激しい女だな」  本当、彼の言うとおりだ。  自分でもおかしいくらい、感情を爆発させている。  仁さんがいてくれるからかも知れない。  それに、ひとつも共感できないこの男がいるから。  やっと吐き出せた気がした。  心にたまった悲しみや不安、ぶつけようもない怒りが。 「前ちゃん、僕からのお願いだ。進哉と結婚してほしい」  突然仁さんに頭を下げられ、びっくりして涙も止まった。 「進哉にはいずれこの会社を継いでもらおうと思っている。しかし、まだトップに立つという覚悟も器量も足りていない。前ちゃんの力が必要なんだ」 「冗談言うなよ。こいつと結婚するのと、会社を継ぐことに何の因果性がある?じいさんが気に入ったってだけだろ?」 「いいや。……いずれわかる時が来る」  正直言って私にも、仁さんの言葉の意図がわからない。  専務は鼻で笑った。 「ふざけんな。俺は生涯誰とも結婚するつもりはない」  未だ深々と頭を下げ続ける仁さんと、隣でふて腐れる彼。  どちらも頑固みたいだ。 「……無理なんだ。一人だけを生涯愛すなんて、愛されるなんて、俺には無理だ」  憂いを帯びた視線を落とした彼を見た瞬間、何かが降りてきた。  言葉ではうまく言い表せない何か。  天命か、女の勘か。  どれも違う。  強いて言うなら、お母さんにそっと背中を押された感覚だ。  今なんじゃないか。  私が一歩踏み出す時は。  前を向く時は。  目の前には、私を支えてくれた大切な仁さんがいる。 「……きっと前ちゃんにとっても、得るものがあると信じている」  私を待っていてくれたのは、仁さんなんじゃないかって。 「いいですよ。結婚」  するりと出た言葉に自身が驚愕している。  それ以上に、右斜め向かいの専務が未だかつてないほどのあほ面で目を見開いていた。 「はあーーーー!?」    
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