気持ちが重なって

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「お待たせ!歩ちゃん準備できました」  お母さんに手招きされて控え室からでると、外で待機していた進哉さんと目が合う。  いつにも増して気品溢れるフォーマルなスーツ姿に目を奪われた。 「……あー、眼福」 「なに言ってるんですか!」  それはこっちの台詞なのに。 「あの進哉さんがそんなこと言うなんて。微笑ましいわねえ」  いえ、この人息を吐くように常にそんなこと言ってます。  お母さんが嬉しそうにニヤニヤするから、余計顔が熱くなる。 「じゃあ、行くか。歩の好きなローストビーフあったぞ」  さり気なく肘を曲げて、私に腕を組むように促す。 「ホントですか?やった」  胸の高鳴りを隠すように笑い、そっと彼の腕に自らの腕を絡ませた。  これは振り、と自分に言い聞かせながら心を落ち着かせようとする私に、彼は耳元で囁く。 「誰にも見せたくない」  そこでまた顔から火が噴いた。  絶対、からかってる。  この人のジョークは、何度聞いても心身が慣れない。 「このまま二人で抜けようか」 「だめですよ!せっかく参加者の名前丸暗記してきたのに!」 「マジで!?なんでそこまで」  びっくりして目を丸くさせる彼に、ちょっと得意げに言った。 「せっかく紹介してくれるんだから、失礼のないようにしないと」  進哉さんは少し寂しそうに苦笑する。 「それも“仁さん”への恩返し?」 「違います」  私は首を横に振った。 「どっちかって言うと、進哉さんに恩返ししたくて」 「は!?」  ますますキョトンとする彼に続けた。 「進哉さんにはいつも助けてもらってるし、背中を押してもらってるから」 「別に……俺はなにも」  進哉さんは、ハッとしたように私を見つめる。 「それに、素敵なご両親にも出会わせてくれた。例えこれが偽りで、一時のものでも、私の長い人生にとっては物凄く大きな力になりました」  つまり、進哉さんと出会うか出会わなかったかは、私の人生にとって最重要だったってことだ。  どんな形で別れを迎えても、いつか絶対にそう思い知る時が来る。 「……やっぱり今すぐ連れ出したい」 「だめです。全員にきちんとご挨拶しないと」 「……真面目か」  会場に入ると、披露宴さながらに大きな拍手が出迎えた。  
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