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序章 凍てついた檻の中で
白い闇は身体を縛るようだった。体温と体力を奪いその場に引き摺り込み、そして沈めて永遠に閉じ込めようとしている。
それでも少女は、長い銀髪をなびかせて吹雪の中を進んでいた。この極寒を歩くには十分だと言えない格好でも、また一歩、立ち向かうようにして進んで行く。靴にまとわりついた雪が重くても、また歩いていく。
いまが昼であるのか夜であるのかわからないほど、全ては吹雪に閉ざされていた。厚い雲に動く様子はなく、ただ、世界はより白く染まっていく。
少女はすっかり震えていた。唇も血色をとうに失っていて、いまにも凍りついてしまいそうだった。
けれども、また一歩、身体を引きずるようにして進む。
その瞳は、俯いてしまっていたけれども。
――一層強い風が、少女をなぶった。煽られて少女は倒れる。そこへ殴るかのように雪が飛んできて、少女は徐々に雪にまみれていく。白色に包まれ、閉じ込められていく。
少女は声を上げることも、起き上がることもできなかった。ただ、積っていく雪の重みを感じていた。
崩れていくようにゆっくりと失っていく意識。だが。
「……」
ぼんやりと目を開く。そうして青い瞳で見たのは、赤い石のペンダントだった。
血のように赤い石。どこか、炎よりも熱く、温かく感じられるその色。
しかしその色も、絡められるように、雪に埋まっていってしまって。
……そっと手を伸ばす。石についた冷たい白色を、雪と同じほどに冷たい手で、払う。
そして、石を握りしめれば。
――もう一度、立ち上がった。
こんなところで、死ぬために生まれてきたわけではないことを、思い出した。
こんなところで、永久に凍りつくわけにはいかないことを、思い出した。
吹雪の中を、もう一度、歩き出す。
……国を出たことに、後悔はなかった。
国も、この極寒も、きっと違いはないのだから。
――でもこの先に、命の楽園があるとしたら。
青い瞳は先を見据えた。この凍りついた牢獄のような世界の先を。
【序章 凍てついた檻の中で 終】
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