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「君のすべてにうんざりだ。別れよう」
レストランで、俺はそんなことを言って、彼女に別れ話を切り出した。
「一体、私のどこが不満なの」
「全てだよ。話し方も、ものの価値観も、全てが合わないんだ。君にはもう、我慢できない。同じ空気すら吸っていたくないね」
出来る限りの悪意を込めて言ってやった。
俺のことを二度と見たいとすら思わないように。
「よくもそんな、ひどいことが言えるわね」
「本心で思ったままを言ったまでさ、雌豚め。新しい相手でも見つけるんだな」
彼女は勢いよく席を立ち、「最低」と言い捨てて去っていった。
もう、二度と俺に会おうとは思わないだろう。
彼女になんの不満があったのかって?
いや、そんなものはない。
彼女は最高の女性だ。
一生を添い遂げたいと思ったんだ。
でも、それは見果てぬ夢だった。
なぜなら、先日の健診で、俺にガンが発見されたからだ。
まだ二十代の若さゆえに進行も早く、余命はあとわずかだろうとのこと。
俺が死ぬのは、もう、しょうがない。
どうしようもないことだ。
だが、残された彼女は?
俺と死別したら、それを引きずって、新たな人生を歩みだすのが遅れるかもしれない。
そういう不幸は避けたい。
だから俺は、できる限り俺を嫌いになった上で、彼女が俺と別れてくれるように、今日、こうしたんだ。
これでもう、万が一俺が死んだことを知っても、彼女は悲しみすらしないだろう。
絶望の運命の中で、唯一の抵抗が出来た。
俺はかすかな満足感と共に、レストランでつけっぱなしになっているテレビを見た。
レポーターが興奮気味にニュースを読み上げている。
「重大なニュースです。人類全体にとっての福音とも言えるニュースです」
福音、か。
すべてを失った俺には関係のない話だな。
「ガンの特効薬が認可を受けました。副作用もなく、末期ガンにすらてきめんに効果を現す画期的な薬で……」
ガンの特効薬。
たしかにすばらしい福音だ。
人類すべてにとっても、そして俺のような末期ガン患者にとっても。
ああ、あと一時間、このニュースが流れるのが早ければ……。
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