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「昭夫くんがね、連絡をくれたの。真ちゃんは大晦日には仕事が無いから家に戻ってくるって」
紗織が台所に立って、持参した食材でなにか料理を始めた。
里穂も可愛いエプロンをつけて、なにやらくるくるとお手伝いをしている。
省吾はもう俺の膝の上だ。
「ろくな食い物も無いから買い物いこうと思ってたんだ。助かった」
「真ちゃん、お出かけするところだった?」
「うん、今から省吾に付き合ってもらって近所のスーパーまで行ってくる」
うちには里穂や省吾の喜びそうな菓子とかジュースがない。それだけは買いに行きたかった。
省吾と手を繋いで歩く。
小さいリーチで一生懸命に歩く省吾がとにかく可愛い。
店の中が混んでいたので、省吾を見失ないそうになった俺が抱き上げた。そのまま買い物をする。
カゴの中身は省吾に聞きながら選んだジュースとお菓子ばかりだ。
会計の時には省吾を一度下ろしたが、省吾は俺の右脚を抱きかかえて離れようとしない。余りにも人がいっぱいで怖かったのかも知れない。
入り口付近のケーキ屋で、紗織が昔好きだった覚えのあるシュークリームを10ヶ程買った。それを省吾が頑張って持つという。
試しに持たせてみたら、見事に傾いてコケた。
それがすごく可愛いくて、思わず笑ってしまったが。
俺は省吾を背負い、後ろ手に荷物を持って家路を辿る。
「おじちゃん、ゆうやけこやけ。きれいだね」
俺の背中から省吾が指差す。
見上げると、本当に見事な茜色の空とそれを映す雲の群れ。今年最後の夕焼け空だ。
「省吾、歌ってみな。ゆうやけこやけ」
「うん!ゆうやけこやけでひがくれて…」
まだちょっと舌っ足らずな言葉の声で省吾が歌う。
その背中越しの可愛い歌をBGMに、俺はかなり幸せな気分で家路に着いた。
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