愛しき夢

3/8
前へ
/166ページ
次へ
「昭夫くんがね、連絡をくれたの。真ちゃんは大晦日には仕事が無いから家に戻ってくるって」    紗織が台所に立って、持参した食材でなにか料理を始めた。  里穂も可愛いエプロンをつけて、なにやらくるくるとお手伝いをしている。    省吾はもう俺の膝の上だ。   「ろくな食い物も無いから買い物いこうと思ってたんだ。助かった」 「真ちゃん、お出かけするところだった?」 「うん、今から省吾に付き合ってもらって近所のスーパーまで行ってくる」    うちには里穂や省吾の喜びそうな菓子とかジュースがない。それだけは買いに行きたかった。      省吾と手を繋いで歩く。  小さいリーチで一生懸命に歩く省吾がとにかく可愛い。  店の中が混んでいたので、省吾を見失ないそうになった俺が抱き上げた。そのまま買い物をする。  カゴの中身は省吾に聞きながら選んだジュースとお菓子ばかりだ。    会計の時には省吾を一度下ろしたが、省吾は俺の右脚を抱きかかえて離れようとしない。余りにも人がいっぱいで怖かったのかも知れない。    入り口付近のケーキ屋で、紗織が昔好きだった覚えのあるシュークリームを10ヶ程買った。それを省吾が頑張って持つという。  試しに持たせてみたら、見事に傾いてコケた。    それがすごく可愛いくて、思わず笑ってしまったが。  俺は省吾を背負い、後ろ手に荷物を持って家路を辿る。   「おじちゃん、ゆうやけこやけ。きれいだね」    俺の背中から省吾が指差す。    見上げると、本当に見事な茜色の空とそれを映す雲の群れ。今年最後の夕焼け空だ。   「省吾、歌ってみな。ゆうやけこやけ」 「うん!ゆうやけこやけでひがくれて…」    まだちょっと舌っ足らずな言葉の声で省吾が歌う。    その背中越しの可愛い歌をBGMに、俺はかなり幸せな気分で家路に着いた。 d427796d-7dac-47ac-bd35-ff383481bbeb
/166ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加