遥か

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 ――口の中に鉄さびの味が広がる。  俺はそれを思い切り吐き出した。結構な量の血だ。   「粋なもん持ってるじゃねぇか」    俺は俺の横面をひっぱたいたその木刀をぐっと掴んだ。  力任せにそれを取り上げ、膝でへし折る。   「おら、かかって来いやぁ!!このヘタレどもっ!!」    俺は尚も連中を挑発した、ケンカはもっと歯ごたえが無ければつまらない。  こいつら、木刀やらバットやら獲物を持って来てる割には歯ごたえ無さ過ぎ。すげーつまんねぇ。   「来ねぇんならこっちから行かせてもらうが――?!」 「う、わーっ!!」    一人がバットを放り出して逃げ出した。残りの5人もそれぞれケツをまくって逃げ始める。   「化け物―!!」    失礼な、せめてクマ位にしておいてくれや。    とにもかくにも、連中は自分のトラックやらダンプやらに乗ってほうほうの呈で逃げて行った。   「自分らが売って来たケンカだろうによ」    俺はもう一度つばを吐いた、まだかなり血が混じっていたが気にしない。歯が折れた訳では無さそうだから。   「真さん無事か?」 「おう、戦国」    同じ無線クラブのメンバーである戦国(無線ニックネーム.コール)が現れた。   「返り討ち済みか?」 「ああ、お帰り願ったよ」 「で、どこの群番のヤツ?うちの【烈火の真】にケンカ売ろうっておバカは」 「わからん」 「はぁ?」    俺は自分の皮ジャンに付いた砂ぼこりを払った。   「どこのヤツでもとりあえず良いよ、ケンカ売られりゃ買うだけ」     退屈しのぎ位にはなると思ったが、今日のは全然あかんかったな。 「じゃぁな戦国、俺はこのまま築地向けだ」 「そうか気をつけてな。あ、羽鳥さんから俺の館(※無線用語.自宅)に有線(※家電話)あったよ。連絡くれって」 「あぁ、いつもすまんな」    俺の中学以来の友人、羽鳥昭夫には用事がある時にはこの戦国にことづけを頼むように教えてある。  戦国は港近くの工場で横持ち(※近距離の荷物の搬送.移し替え)とコークスの輸出の仕事をしている大型ダンプの運転手で、港に行くと必ず無線が繋がる。  戦国が俺への連絡役を買って出てくれたので、俺はいつも助かっている。   「じゃ、俺行くわ。又な戦国」 「はいよ、ご安全にな」
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