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俺は時計を見た。
まだ20時前だ。
適当な場所で見つけた電話ボックスの前にトラックを停めた。
トラックを降りて振り返ると、自分のトラックの青とグリーンを基調にした電飾のリレーが凄く綺麗だった。
このトラックには、俺の稼ぎのほとんどをつぎ込んで架装してる。いわゆるデコトラだ。最近はアートトラックとも言うらしい。
箱の部分には地獄の烈火に立つ夜叉の姿。
烈火の夜叉は、俺の分身だ。
俺の家は今日もえらく闇に映えて美しかった。
「え…と、小銭あるかな」
ジーンズのポケットに手を突っ込むと、何枚かの10円玉が出てきた。
俺はそれを公衆電話に入れて押し慣れた昭夫の家の番号を押す。2.3回の呼び出し音の後、昭夫本人が出た。
「よぉ、昭夫久しぶり」
「ああ、生きてたか」
えらい言われようだが、そういや昭夫に連絡するのも3ヶ月ぶり位かな。
「戦国に連絡するように言われたんだけど」
「うん、紗織がな」
紗織、と言う名前に一瞬胸が高鳴る。
その名前は俺の唯一の聖域だ。
「お前が親父さんの命日に線香も上げに来なかったんでかなり心配してるんだ。お前、紗織といつから会ってない?」
「1年…以上かな」
「あほ。お前、紗織に親父さんとお義母さんの位牌預かってもらってんだろ。ちゃんと顔くらい出してやれよ、それが義理張りってもんだろ」
「ああ」
「あんまり行きたくないのはわかるけどさ」
昭夫は俺の事情を知ってるだけに、ちょっと気の毒そうに言った。
紗織は俺と同い年の俺の従兄弟だ。と、いっても血縁は全くない。
親父の再婚相手が紗織の叔母さんだったのだ。
いつもトラックで日本中を駆け回っている俺は、到底位牌の世話など出来そうもないので、その事を申し出てくれた紗織の好意に甘えた。それが俺が22才の時。
すでに結婚していた紗織が、二人目の子供・省吾を出産する直前だった。
それから命日や祥月命日にはなるべく紗織の家に顔を出すようにしていたけど…俺は紗織には悪いけど、紗織の旦那、御堂隆之がどうにも気に入らなくて。
いわゆるイケメンと言われてるやつだけど、俺には表面だけの薄っぺらい男としか思えなくて。あの手のヤツを俺は昔から大嫌いだ。
自然に紗織の家から足が遠退いてしまっていた。
紗織の子供、長女の里穂も、二つ違いの弟・省吾も、本当に可愛い子供たちで俺にも懐いてくれたけど。
そうか、もう1年以上も紗織たちに会ってなかったんだな俺。
「今日は東京だから、戻ったら紗織んち行くよ」
確かに不義理が長すぎるよな。
今日帰ったら、紗織たちに会いに行こう。何かチビたちが喜びそうな物を持って。
「ああそうしろよ。あとな、真治」
「うん?」
「俺んちのお袋から聞いた話なんだけど、紗織の旦那はここしばらく姿が見えないらしいぜ。なんだか別居してるんじゃないかって噂になってるらしい」
「えっ?」
紗織の近所に住んでいる昭夫の話に、思わず耳を疑った。
紗織…お前、幸せに暮らしているんじゃなかったのか…?
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